続編 〜君の前から消えた婚約者〜 7
四ヶ月前の夜会、ヘレナからダンスに誘われるのを、バートラムは待ち構えていた。
だが、一向にヘレナはバートラムの前へ現れない。
「ヘレナ嬢と踊らなくていいの?今からでも探しに行ってみては?」
「ああ、別に問題ない…。今日はお前と参加したんだし、アイツのことは忘れて楽しもう」
バートラムの騎士科の仲間であるディアナは慣れないドレスで着飾り、初めて夜会へ出席した。
バートラムはヘレナのことを忘れて、ディアナとダンスを嗜むことにした。
伯爵令息によるヘレナへの暴挙を知ったのは翌日のことだった。
学院では箝口令が敷かれていたが、人の口に戸は立てられない。ましてや、噂好きな年頃の生徒たちなら…。
バートラムは血の気が引いた。カイアスがヘレナを助けてくれなければ、取り返しのつかないことになったかもしれない。
ヘレナの無事を聞いて、胸を撫で下ろしたものの、バートラムは得体の知れない胸騒ぎがしていた。
バートラムは物心がついたときには、ヘレナのことが大好きだった。
下手をすれば嫌われるような言葉を並べていたのは、バートラムの好意をヘレナに悟られないためである。
バートラムなりの苦肉の策だ。
幼い頃から、周囲の男たちの品定めをするような視線を浴びていたヘレナは、異性をかなり嫌悪していた。
「お前の澄ました顔が嫌いだ」
バートラムはヘレナを空から落ちてきた雪のように儚く純粋な少女だと思っていた。
だが、恋慕を隠すため、多くの人前でヘレナの容姿を否定した。それでも、ヘレナは真摯な眼差しで告げる。
「私はバートラム様をお慕いしております」
常にバートラムの背中を追ってくるヘレナを好ましく思っていたが、裏腹な言葉を投げつける。
「迷惑だと言っているだろう!」
「一目、バートラム様にお会いしたくて」
ヘレナの星の瞬きにも似た大きな瞳へ自分しか映っていないことにバートラムは満足した。
「ここに来るなと言っただろう!周りが騒いで訓練にならん!」
ときに、ヘレナは騎士科の訓練所まで足を運んできた。バートラムは他の男の視線を避けたいがために怒鳴った。
「お許しください。ですが、貴方様のお好きな焼き菓子を差し入れに持って参りましたの」
バートラムだけに向けられたヘレナの笑顔を誰にも見せたくなかった。
ヘレナはバートラムに何度も恋心を示した。それでも、バートラムはヘレナに比べると見劣りしてしまう自分に自信がなかった。
「じゃあ、試してみれば?」
幼馴染の煮え切らない姿に、一緒に鍛錬に励んでいたディアナが提案した。
「他の女とイチャついてみて反応を見てみれば?嫉妬してくれると思うよ?彼女、あんなにバートラムが好きなんだからさ」
バートラムはその言葉に頷いた。
それから、バートラムはディアナと交際しているように装った。
ヘレナは二人が仲睦まじく、語り合っているのを見て悲しんでいた。ディアナへ嫌がらせを始めるほどに…。
「ねっ!バートラムのためにあんなに必死になって、私を排除しようとしてるんだよ?まぁ、可愛いもんで、待ち伏せして水を掛けるぐらいだけどさ」
ヘレナの思い悩む様子を何度も目撃していたディアナはそろそろ潮時だと感じていた。
「なぁ?婚約破棄って言っても、ヘレナはしないよな?」
バートラムからの問いかけに、ディアナは笑って返事をした。
「まぁ、しないだろうね。ヘレナ嬢はバートラムのことを愛しているからさ」
その頃、学院では男性側から婚約者の女性へ断罪する行いが流行っていた。
「全校生徒の前で宣言したい」
まさか、バートラムがそのようなことを言い出すとは、ディアナにとって青天の霹靂だ。
「はっ?やめなさいよ!アホなの?」
「なんでだよ?ヘレナは俺を見捨てたりしないんだろう」
「いい加減にしなさいよ!やって良いことと悪いことがある!」
ディアナは娯楽のような感覚で婚約破棄を告げる貴族令息に辟易していた。
バートラムが同じ穴のムジナだったとは…。
「これが最後だから…」
「もし、それで縁が切れたらどうすんのよ!」
そうなれば後戻りは出来ない。ディアナは必死でバートラムを止めた。
「切れない!ヘレナは俺を愛しているんだから…」
「知らないよ!」
「そのときは責任を取るよ」
懇願する幼馴染を邪険にすることが出来ず、ディアナは渋々了承したのだった。




