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【完結】ロザリンド嬢は婚約破棄もお手のもの  作者: 礼三


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続編 〜君の前から消えた婚約者〜 6

「好きです」


 カイアスは衒いのない眼差しでヘレナを見つめた。

 夜会から一週間が経った頃だった。

 

「さようでございますか。ですが、私はカイアス様がどのような方か存じ上げません。正直、当惑しております。知り合ったばかりの私のどこをお好きになるというのかしら?私の顔かしら?」


 学院の中庭へ呼び出されたヘレナは率直に尋ねる。この場には、カイアスとヘレナの他にマーガレットが控えていた。

 告白の場に第三者がいるのはいかがなものだろうと、最初ヘレナは訝しんだが、男嫌いのヘレナに対しての配慮であることに気づく。

 マーガレットは少し居た堪れない表情で指をモジモジと動かしながら立ち尽くしていた。

 

「はは、手強いですね。はっきり申し上げますと、確かにヘレナ嬢はお美しい方でいらっしゃいますが、きっかけは顔ではありません。貴女の毅然とした態度といいましょうか?芯の強さが眩しかった」


 男に襲われそうになった後も、ヘレナは淑女として臆せず、必死に己を律していた。その健気な姿がカイアスの心を占めた。

 

「信じられませんわ」

 

「俺は女性が苦手なのです。ですが、ヘレナ嬢は違った」


 いつか、カイアスも辺境を守護する身で伴侶を見つけなければならないが、果たして自分に愛する人が現れるのか、不安でしかなかった。

 だが、それは杞憂で…。

 カイアスも恋を知った。カイアスはあの夜会以来、ヘレナのことが頭から離れなかった。

 

「女性が苦手?」

 

「信じてもらえないのなら態度で示すしかございませんね。お差し支えなければ、陰ながら貴女を見守らせていただけないでしょうか?夜会のときのような輩が出るやもしれません」

 

「不躾でいらっしゃるのね」


 ヘレナは顔を曇らせる。憂いを帯びた彼女も魅力的だ。

 

「心配なだけです。俺がダメなら、マーガレットに護衛を命じます」


 縋るような視線を送るカイアスは、本気でヘレナの身を案じていた。

 ヘレナはカイアスの気持ちを察して告げた。

 

「あの夜会からベアトリス嬢にもご配慮いただいてますの」


 ベアトリスは授業の合間があれば、ヘレナの警護をしていた。

 

「姉上らしい。貴女の話を聞いて、あの伯爵家へ乗り込みましたからね」

 

「はい?」

 

「ご存知ありませんか?夜会でヘレナ嬢の傍にいなかったことを悔やんでいたのですよ。あの男は謹慎が解けてからも、ヘレナ嬢に近づくことはないでしょう。姉上が目を光らせているのです」


 ヘレナは過保護なベアトリスに呆れてしまったが、不意に可笑しくなり笑みをこぼした。


「私、友人に恵まれていますわね」


 その嫋やかな笑顔を湛える横顔にカイアスだけでなく、マーガレットも感嘆の息をついていた。


 

 その日の放課後…。

 

「うーーーーん、ヘレナ嬢は一途だからな。難しいんじゃないか?高嶺の花だろう」


 姉弟は内政科と魔法科の棟を結ぶ渡り回廊から階下を眺めていた。

 ヘレナとロザリンド、オリヴァーが並んで、銀杏並木に挟まれた道を行く。

 銀杏の葉が敷き詰められ、さながら黄色の絨毯の上を歩いているかのようだ。

 

「そうでしょうか?普通の女の子だと思いますが…。まぁ、俺が好きになった時点で普通ではないかもしれませんね」


「お前、女性に全く興味がなかったもんな。モテてるのに…」

 

 幼い頃、カイアスは母親譲りの甘いマスクで天使のような面持ちをしていた。

 最近は厳(いかめ)しい父にも似てきて、容姿や身体つきも雄々しくなってきたカイアスだったが…。

 昔のような愛らしさは幾分薄れてきたはずであるのに、令嬢の付き纏いは以前より増え、厭わしかった。


「姉上はそうおっしゃるが、俺には地獄のようですよ。彼女たちは俺の容姿と身分が愛しいだけですから」

 

「お前も捻くれているよな」

 

「そうかもしれませんね。けど、俺はヘレナ嬢に出会ってしまった」


 ベアトリスは視線を移し、ベンチに腰掛けて語り合っている二人を冷ややかに見つめた。バートラムと噂の男爵令嬢だ。

 

「まぁ、バートラムは私もダメダメだと思うけどさ」

 

「先輩に対していかがなものかと?」


 バートラムはベアトリスよりも学年が一つ上だ。騎士科の同級生であるエドガーの評価では、バートラムは中々の腕前であるらしい。

 ウェストモーランドの屈強な戦士には敵わないだろうが、それでも剣術は目を見張るものがあると…。

 

「それで、お前、ヘレナ嬢にはっきり断られたらどうするんだ。バートラムと復縁したり、他のやつとくっついちゃったらさ」

 

「ヘレナ嬢が幸せなら祝福しますよ」


 ベアトリスは弟のまなじりに光るものを認めた。

 

「おいおい、今、お前、想像してるだろう?泣いちゃっているぞ」

 

「姉上、どうしましょう…。ヘレナ嬢が他のやつと結婚してしまったら、祝福しますけど…。俺、正気を保てるか…」


 いつも飄々として澄ましている弟の実態は涙脆い。

 

「分かった。そのときは私と一緒に武者修行に山に籠ろう…なっ?」


 ベアトリスは弟の肩を抱き寄せて慰めるように笑った。

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