続編 〜君の前から消えた婚約者〜 3
『三度目のお別れを』
小説の内容は至ってシンプルで、婚約者に蔑ろにされた令嬢が死を繰り返しては回帰し、三度目に婚約者の呪縛から解き放たれ、自由を謳歌するという話である。
ロザリンドは主人公にヘレナを投影したらしい。
黒髪と黒目、容姿もヘレナのような美貌の持ち主で、置かれた境遇もまさしくヘレナそのものだった。
「ロザリンドったら、泣かなくてもいいのに…」
ヘレナは本を閉じて、ベッド脇に備えてあるテーブルの上に置いた。
思わず、泣き腫らした目のロザリンドを思い浮かべる。
「そうね…。私もそろそろ前に進まなくては。二度も死んで後悔するのは、遠慮させていただきたいわ」
ヘレナは冗談まじりに呟き苦笑する。
言葉とは裏腹に、差し込んだ月明かりに寂しさを滲ませたヘレナの横顔が映し出されていた。
そして、一昨日…。
ヘレナはバートラムへ別れを告げた。
バートラムは最後に何か言いたそうだったが、ヘレナは振り返ることもせず、教室を立ち去った。
昨日、ナルボン侯爵は娘に呼び出され、学院近くの格式ある洋食店へ訪れた。
給仕に個室へ通されたナルボン侯爵は、ヘレナを認めて切なくなった。
窓から階下を通る人々を眺める娘の表情が悲しげであったからだ。
ナルボン侯爵は、バートラムに対するヘレナの深い愛情を知っていたので、ヘレナの口から『婚約解消』の言葉が出たとき驚いた。
「いいのか?ヘレナ、本当に後悔はしないのか?」
ヘレナは幼少期から美しすぎる故に危険に晒されていた。
そこでナルボン侯爵は友人であるロシリオン伯爵へ相談した。婚約者として、ヘレナの盾に白羽の矢が立ったのがロシリオン伯爵の息子バートラムである。
「あんなに好意を抱いていた相手ではないか?」
ヘレナは父の言葉にきっぱりと答えた。
「バートラム様には想いを寄せるお方がいらっしゃいます。ロシリオン伯爵からは聞いておりませんか?」
学院の大広間であれほどの断罪劇を全校生徒に披露したのだ。
バートラムが婚約破棄の意向を、ロシリオン伯爵へ相談するのは確実であろう。
少なくともヘレナはそう考えていた。
身分に違いがあっても、両家の父は親しい間柄だ。話し合いぐらいは設けるだろうと…。
「何?寝耳に水だ」
「左様でございますか?」
「あいつも馬鹿だな…。だいたい、バートラムがつれない態度を取るのは…」
ナルボン侯爵は続けようとして話を止めた。ヘレナの眼差しを受け止める。
ヘレナの母は出産時に娘を残して、天に召された。
娘は亡き妻の面影を映している。懐かしさが込み上げた。
「何故でございますの?バートラム様が私を嫌っておりましたこと。お父様もご存知でらっしゃるでしょう?」
バートラムを擁護する必要はない。少なからず、バートラムは愛娘を傷つけた。せいぜい後悔すればいいとナルボン侯爵は思った。
「はぁーーーーーーー。いや、もういい。我が姫を失ってしまうとは、本当に馬鹿以外の何者でもない」
「まぁ、姫だなんて、私は立派な淑女でございましてよ」
「父親にとっては何歳になっても姫さ」
現在、ナルボン侯爵がロシリオン伯爵へ婚約解消を掛け合っているところであり、近々正式に文書で受理されるだろう。




