続編 〜君の前から消えた婚約者〜 2
ヘレナは今秋、アーデン公国立ストラトフォード学院の二年生になった。
昨年度から変わったことと言えば、友人のロザリンドが平民の地位へ落とされたこと、そのロザリンドと結婚する予定だったプロテュース卿がウェストモーランド辺境侯国へ飛ばされて見習い騎士として仕えていることであった。
卒業生とはいえ、プロテュース卿は女生徒の憧れであったため、ロザリンドへ非難が集中するかと案じていたヘレナであったが…。
プロテュース卿の多方面に亘る火遊びが発覚して、ヘレナの心配をよそにロザリンドは多くの被害女性から感謝されており、平穏無事な二年生を共に過ごしていた。
「こちらは空いているかな?」
「殿下、私たち女子トークをしておりますの」
柔らかな春の陽光を受けて、ロザリンドの眉が片方だけあがる。
ヘレナとロザリンドが学食で居座る席はいつもの定位置だ。窓際で燦々と日差しが降り注いでいた。
そこへどこからともなく、オーランドー第四王子が現れ、ロザリンドの隣の席へ当たり前のように腰掛ける。
「私は邪魔ということか?つれないな…」
「殿下、僕らの結婚式から吹っ切れましたね。ですが、ロザリンドは相変わらず気づいてないようですよ」
その傍らではオーランドーの学友兼護衛であるオリヴァーが含み笑いをしながら立っていた。
オリヴァーはロザリンドの義弟だ。ロザリンドの妹であるシーリアと夏季休暇中に結婚式を挙げた。
「オリヴァー卿、座ってはいかが?そこに立っていられると迷惑ですわ」
ヘレナが隣の席を引いた。
オリヴァーはオーランドーが頷くのを認めて、腰掛けた。
「では、遠慮なく」
「でっ?何の話をしていたのだ?」
オーランドーがロザリンドに尋ねる。
「小説の話です…」
「最近、ちまたで人生をやり直す小説が流行っているんですのよ」
ヘレナの答えにオリヴァーは腕を組んで首を傾げた。
「そんなものが流行っているのですか?」
オリヴァーの様子にオーランドーは説明を始めたが…。
「昨年まで、婚約破棄宣言ブームがあっただろう?」
発言した瞬間、口を閉じた。ヘレナを気遣ってのことだが、もう遅い。
「私は気にしておりません。続けてくださって構いませんわ」
オーランドーはヘレナの言葉にロザリンドへ視線を送った。
ロザリンドは苦笑いをしながら首を縦に振る。
「それで、その婚約破棄を言い放たれた令嬢が『婚約破棄から始まる私のお気楽人生』だったか、そのような題名の小説を書いたのだ。それが令嬢たちの間で爆発的な流行となり、貴族令嬢を主役とした小説は今や書店にたくさん並んでいる」
「へぇーーー」
オーランドーの話を真剣に聞いていたオリヴァーは感嘆を漏らした。
それほど人気があるのなら、妻のシーリアも楽しんで読めるかもしれない。
そして、ヘレナに話しかけた。
「ヘレナ嬢がそのような大衆本を読むイメージがないですね」
「失礼ですわね。私も乙女ですから…。と申し上げたいところですが、ロザリンド嬢からお借りした小説の話ですのよ」
あれは、二週間ほど前のこと。神妙な面持ちでロザリンドは小説を差し出した。
「主人公の境遇がヘレナ嬢に似ていますの…。何かの参考になれば…。いえ、やっぱりやめておきます」
ロザリンドの態度にヘレナは少し訝しんだが、その腕を取り、告げた。
「読ませていただきますわ」
「…。私、いつもは客観的に読書するようにしていますのよ。ですけど、泣いてしまって…。このようなことが起きるとは思ってませんの。ただ、ヘレナ嬢に主人公がそっくりで…」
回りくどい言い方はロザリンドらしくない。ヘレナは不思議に思いながらも、その小説の頁を捲った。
ヘレナがそのときのことを回想していると、オーランドーがロザリンドに質問した。
「なんて題かな?」
「『三度目のお別れを』って題名です」
前作からの補足です。
オーランドーはフレデリック伯爵家へ臣籍降下が認められていますが公にはしておらず、現在は第四王子の身分で学院に通っています。
卒業と同時に公布予定です。




