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【完結】ロザリンド嬢は婚約破棄もお手のもの  作者: 礼三


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17/21

いざ決戦!

 広く澄み渡る青空にぽっかりと漂う白い雲、緩やかな風に流されながら影を落とす。先ほどまで火照っていたロザリンドの頬に涼しさを感じる。

 眼下の丘陵にはラベンダー畑が遠くまで続く。紫の色彩が微風に誘われて優しく揺れている。歌声を響かせているように柔らかで慎ましい香りが満ちていく。


 今日は決戦の一日だ…。


 使用人たちは忙しく、フレデリック領に構えている邸の中庭へ式場を設置している。

 侍従たちは白を基調とした清楚なデザインのテーブルや椅子を丁寧に規定の間隔で設置し、メイドたちはリボンやら花やらを抱えてひたすら走り、執事は料理長と料理の打合せに余念がない。

 たくさんの労力がロザリンドの結婚式のために使われている。

 目頭が熱くなるのを感じながらロザリンドは心の中で深く詫びた。


(みんな、ごめんね…)

 


 もうすぐ式も始まろうとしている頃。


 ロザリンドは部屋へプロテュースを呼んだ。自室へプロテュースを招くことに、些か迷ったが、応接室は結婚式を祝福しようと縁戚が集っている。


「子猫ちゃん?どうしたの…。まだ準備が出来ていないのかい?」

 

 花嫁衣装へ着替えて花婿の登場を待っているだろう、と予想していたプロテュースのあてが外れた。ロザリンドは簡素な黄緑色のドレスのまま、椅子で寛いでいた。

 ロザリンドは部屋の前に護衛を一人残して、プロテュースと二人きりになれるよう人払いをする。


「マリッジブルーかな?主役の二人のために招待客も待っているよ…。さぁ、早く準備をしよう」


 プロテュースは笑みを崩さなかったが、ロザリンドがテーブルの上に並べた書類を確認して真っ青になった。


「何だい?これは?」

 

 そこには、「家督放棄書」「貴族籍離脱受理書」の二枚の文書が置かれていた。


「家門ではなく、自分の容姿を認めてくれたプロテュース様を信じられなくて…。平民になった私を選んでくださるなら、プロテュース様の愛は本物だと…」


 プロテュースは唇をわなわなと震わせている。


「ご両親は…。ご両親はこのことに納得しているのかい!?」


 ロザリンドは両親にも了解を得ている。

 二人とも大反対であったが、ロザリンドの頑固な性格を知っている。彼女が既に決定してしまったことを覆せないと悟っていた。 

 (シニア)は水面下でロザリンドの婚約解消を目論んでいたのだが、婚姻の時期が早まったことで計画が狂ってしまった。


「はい、両親も私の気持ちを優先してくれました」

 

 フレデリック領で結婚式は挙げたいとのロザリンドからの希望をプロテュースは二つ返事で了承したのだった。

 準備のため、早々に領地にやってきたプロテュースは一目でシーリアを気に入り、臆面なく人前で口説く。

 その様子を見て、家人たちはロザリンドの申し出を泣く泣く受け入れたのだ。

 その間、シーリアの護衛が増えたのは致し方ない。シーリアはロザリンドから必ず部屋の鍵を掛けておくよう強く諭した。

 シーリアはロザリンドの言い付けを守り、フェーベに自室の鍵へ魔法を掛けてもらったほどだ。

 

「はっ!何を勝手なことを!フレデリック伯爵家の令嬢でない君になんか価値はない!」


(まぁ、そうですよね?)


 プロテュースの反応は至極まともだ。

 睨みを利かせたプロテュースは今にもロザリンドへ飛びかかりそうだったが、そこまで無粋な人間ではなかったようで、そのまま黙り込んだ。

 しばらくして、口を開く。


「そうだ…。僕とシーリア嬢が結婚すれば良いんだ。丸く収まる」


 ロザリンドはプロテュースの提案に呆れた。


(うーーーーん。馬鹿なんですかね?領主の資格は学院の内政科が必須で、騎士科か、魔法科の特別授業を選択しなくてはいけなくて…。貴方、騎士科の卒業資格しか修得してないではないですか?シーリアは引きこもりだったのだから、学院生活は難しいですよ)

 

「えっと、この家を継いでくださる方はもう決まっているのです」


「はっ?」


 髪をわしゃわしゃと掻き回しながら、プロテュースは間の抜けた返事をした。

 ロザリンドにはプロテュースのいつも綺麗な髪の輝きが鈍っているように見えた。

 ロザリンドは手を叩く。それが合図だった。

 室内へ背の高い男性のシルエットが現れる。しなやかな姿勢で佇む彼は青の儀礼服を身に纏っていた。肩章(エポレット)の金色がよく映えている。

 頭頂(とうちょう)に冠を被っているような輪が煌めく黒髪が微かに動き、穏やかで知的な紫の瞳がロザリンドを見つめた。


「殿下?何故ここに…」


 釈然としない表情のプロテュースは、不躾な視線をオーランドーに投げた。


「はは…。友人の結婚式を祝いに来たのだが?」


 窘めるような眼差しのロザリンドを確認して、オーランドーは告げる。


「この度、私はフレデリック伯爵家へ臣籍降下が認められた。もちろん、大公殿下の意向だ」

 

 大公家にとって、オーランドーの存在感は薄い。ただ、大公の血脈というだけで、家族としての扱いはされていなかった。

 唯一、弟だと可愛がってくれていたのは第二王女のミランダだけだ。

 ただ、それ故に他の兄弟たちと比べて自由に生きてこれた一面もある。

 今回の臣籍降下も大公へ願えば、簡単に承認された。大公はフレデリック伯爵家と血縁を結べることを深く喜んだ。

 ロザリンドの貴族除籍を許したのもそのためだ。


「なっ!ふざけるな!この婚姻は無効だ!恥をかかされたのだからっ!この度、払った結婚費用や、精神的損害を被ったのだから慰謝料は頂くからな!」

 

「ふむ、そうですわよね?ですからプロテュース様をお慰めするために、私の友人の方々をご招待しましたの」


「何!?」


「皆様っ!いらっしゃって!」

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