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ロザリンド嬢は婚約破棄もお手のもの  作者: 礼三


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13/21

忘れられた王子

 アーデン公国の大公家には、上から王太子、第二王子、第一王女、第三王子、第二王女、第四王子の順に六人の子供たちがいる。

 そのうち、第二王女と第四王子は現王妃との間に授かった子だ。


 アーデン大公は前王妃と深く愛し合っていた。彼女が病で天に召されてからも妻は生涯一人だけと決めていたが、外交上の諸国に対する体面もあるため、後妻を娶らなければならなかった。

 後妻として嫁いだ現王妃は、前王妃の忘れ形見、四人の王子王女を分け隔てなく慈しんだ。

 その清廉な心根に絆され、大公も現王妃を寵愛するようになり、ほどなくして第二王女が生まれた。

 玉のように美しく、王家を象徴する銀髪、紫の瞳を帯びた第二王女(ミランダ)の誕生を兄弟たちは心から喜んだ。

 王子王女たちの様子に、現王妃も改めて王家の一員として受け入れられたようで、何よりも嬉しかった。

 だが、第四王子(オーランドー)のときは違った。

 瞳は王家の色、紫を宿しているが、髪色は現王妃の祖父から譲り受けて闇のように深い黒であった。第四王子(オーランドー)は決して不義の子供ではない。大公の面影を残している。

 ただ、綺麗な顔立ちはしていたが、銀髪を冠する王子王女たちよりも見劣りしており、第二王女(ミランダ)に比べて兄弟たちの関心は薄かった。

 蔑ろにされてきたわけでもない。王族としての教育も施され、食事も十分に与えられた。

 ただ単に、兄弟たちの興味が第四王子(オーランドー)へ向かなかっただけだ。

 兄弟たちに弟として数えられなかった息子(オーランドー)は現王妃の心も蝕んだ。彼女は息子(オーランドー)に対して、一切干渉しなかった。いないものと扱ったのだ。



『忘れられた王子』

 ストラトフォードへ入学したばかりの頃、ロザリンドはその呼び名の意味を知らなかった。

 だが、悪意を持って囁く生徒たちのおかげで、この学院でその意味を知らない者はいない。

 以前、ロザリンドが生徒会室で書類整理をしている際、ミランダが寂しそうに語ったことがある。


「毎年、私は…。私のために誕生日の宴が開かれますの。貴賓たちが競って、沢山の献上品を届けてくださるのよ。それこそ、部屋に入りきれないほどね。ある時ね…。幼心にオーランドーの誕生日会へお呼ばれされていないことに気づいて…。私はオーランドーを詰ったのです」


 ミランダの話を聞いて、ロザリンドが顔を上げる。ミランダは窓から夕焼けを眺めていた。横顔が夕陽に溶け込んで、その表情を窺い知ることはできない。

 

「あの子は喜んで

『お姉様、僕の誕生日会に来てくださるの?』

って…。誕生日に部屋へ呼ばれて…。オーランドーは専属の侍女たちとケーキを食べていたのですよ。私が抱えた贈り物を見るなり、笑顔になって…。私…。私ね…」


 静かな室内に短く息を飲む音が響く。

 ロザリンドは居た堪れなくなって立ち上がり、ミランダの肩へ手を添えた。


「私…。そのとき、オーランドーの置かれている立場を知りましたの。遅すぎましたわ…。兄弟の誰よりも、あの子は美しく聡明なアメジストの瞳を持ってますのよ。銀髪でなくても、立派な大公家の一人ですのに…」


 ミランダはロザリンドの手へ自身の手を重ねた。


「オーランドー殿下はミランダ殿下とお揃いの宝石を宿していらっしゃるのですね。いつも前髪で見えなくて」


「ふふ、そうですわね。とても、綺麗な瞳…。あらっ、私の瞳も綺麗ってことですわね?」


「殿下の双眸は女性の私も見惚れてしまいますよ」


「ふふ、明日ね。オーランドーの誕生日なんですの。私事で生徒会室を使うのは憚られますけれど、ご一緒に弟を祝ってくださらない?」


「もちろんです」


 その後、ささやかながら、オーランドーの誕生日を生徒会メンバーで祝った。

 長く伸びた前髪のせいで、オーランドーの表情はやはり分からなかったが、耳が赤く染まっていたのをロザリンドは見逃さなかった。



「オーランドー殿下?」


 ミランダの言葉を思い出す。

 アメジストのような彩りの美しい双眸が、ロザリンドを心配そうに見下ろしていた。


「ロザリンド嬢、大丈夫か?」


 オーランドーの漆黒の髪が短く切られ、全体的に整えられている。あらわになった端正な顔立ちに、ロザリンドを囲んでいた令嬢たちは唖然とした。


「オーランドー殿下?えっ?あの『忘れられた王子』なの?」


 手を押さえられている令嬢の口から不躾な言葉が漏れる。その隣にいた令嬢は顔を青褪めさせて、オーランドーへ最敬礼を捧げた。その発言は不敬罪と問われても致し方ない。


「いっ、至らぬことを申し上げました。申し訳ございません!ほらっ、貴女も!」


 オーランドーが令嬢の手を離す。令嬢は納得いかなかったようだが、それでも謝罪の意を述べた。


「申し訳ありませんでした…」


「私にではなく、ロザリンド嬢に謝るべきであろう?」


「えっ?なんでこのあばずれに?」


 ふてぶてしい態度を崩さない令嬢の制服の裾を、オフィーリアは泣きながら強く引っ張った。

 顔を見合わせて、四人は同時に頭を下げた。逃げるように去り行く四人の背中をロザリンドは見送る。

 視線に気づいたロザリンドは、オーランドーを見上げる。


「殿下、髪を切られたんですね」


「ああ、思うところがあってね」


 すっきりとした首の後ろにオーランドーは照れくさそうに手を添えた。


「最近、お休みされていたので心配しておりました」


「心配してくれていたのか?」


「友人ですもの?私が友人だなんておこがましいでしょうか?」


 ロザリンドの言葉に、オーランドーがはにかむ。短く揃えた黒髪が風にそよいだ。

 その面影に、ロザリンドは何故か懐かしさを覚えた。

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