子猫たち
(あのお方…。整理すると仰っていたけど、一体何人のご令嬢とお付き合いしていたのだろうか?)
二日後…。
放課後、ロザリンドは裏庭へ呼び出された。北風が冷たく窓へ吹きつける。ガタガタと鳴る窓を背に、ロザリンドは四人のご令嬢に詰め寄られていた。
木々がしなり、辛うじて枝先で耐えていた枯葉が落ちる。
「可哀想だと思わないの?オフィーリア様は、ずっとプロテュース様一筋で尽くしてきたのよ」
(はい、お気の毒だと思います。申し訳ないことでございます)
心の中で謝りつつ、ロザリンドは三人の令嬢から守られている少女を観察した。
腰まである手入れされた青みを含んだ灰色の髪は穏やかそうな彼女にとても似合っている。毛先は軽く巻かれており、透き通った色白の形の良い額に一筋だけ零れているのが儚さを匂わせていた。
夜明けを待つ空のような深い藍色の潤んだ瞳は零れそうなほど大きい。
そう美少女と断言して良い。
「大変、恐縮ではございますが…。この度は、ベルモンド侯爵家より申し入れがございまして…」
始業前、昼休み、そして放課後…。ロザリンドのこの台詞は本日三回目だ。
そして返される言葉は…。
「嘘よ!私たち、愛しあっていたのですから!」
(そうでしょう、そうでしょう。どう考えても、私が選ばれる方がおかしい)
出会ってから数週間、凄まじい早さで婚約まで進めたのは、間違いなくプロテュースであってロザリンドではない。
ロザリンドが押し黙っていると、取り巻きの令嬢の一人が声高に責める。
「黙ってないで!何とか言ったら?」
「では失礼ながら、オーフィリア嬢…。プロテュース様との交際期間についてお聞かせくださいませんでしょうか?」
「はぁ?」
ロザリンドの問いかけに取り巻きの令嬢たちは呆れた眼差しを向ける。
「何故そのような質問を?プロテュース様を私が未だにお慕いしてますことを、責めていらっしゃるの?」
「はぁ!コイツの方が後からしゃしゃり出て来てるんだから!コイツの方が悪いんじゃん!」
ロザリンドを指差した令嬢は怒りを隠せず、淑女からほど遠い口調で罵った。
「あっ、いやそのような…意味では…」
ロザリンドへ唾でも吐きそうな勢いの令嬢に腕を絡めて止めると、オフィーリアは上目遣いで瞳を潤ませて弱々しく答えた。
「確かに一昨日までは…。ですが貴女様がいらっしゃるからと仰って、関係を精算いたしましたのよ。プロテュース様は清廉な方なのです」
(清廉とは?皆、プロテュース様に弄ばれているとしか思えないけど…)
何かが脳内で吹っ切れたロザリンドは細い目を見開く。目が血走っていたロザリンドの形相に令嬢たちは慄いた。
「そうではなく!いつからお付き合いをされていたのですか?教えていただきたいのです!」
鬼気迫るロザリンドに、慄いて目を逸らしつつも、オフィーリアは素直に教えてくれる。
「私が昨年入学してからすぐ告白されましたの。それからですわ。それはそれは大切にしてくださいましたのよ」
(つまり、一年と三、ないし四ヶ月ぐらいか…)
前の二人にも聞いておけば良かったとロザリンドは後悔した。
これまで、ロザリンドを糾弾しようと呼び出したのはオフィーリアを含めて三組、その中心人物は皆一様に素直で従順そうである。手折れそうなほど身体の線が細く、消えてしまいそうに儚い。
共通して皆、美麗な顔立ちで造形がロザリンドとは全く違う。特に豊満で形が綺麗な胸…。
ロザリンドは領地経営学の教育を専攻している貴族令嬢を全員覚えている。学院を占める割合が少ないからだ。
オフィーリアたちになくて、ロザリンドにあるもの…。
それは家督継承権である。
オフィーリアは隣の令嬢へしなだれ、涙ながらに語る。
「私のことが可愛いからと子猫ちゃんなんて呼んでくださっていたのに…」
(こっ、ここにも、子猫ちゃんが!)
ロザリンドは再び考えを巡らせる。
推測ではあるが、プロテュースは交際相手を皆、子猫ちゃんと呼んでいたのではないだろうか。
(なるほど、ご令嬢方の名前を間違えないでいい…。今度、私の名前は?なんて聞いてみようか…)
「私、二番手の女でも構いませんのよ。もうあの方に会えないのが辛いのです…」
泣きながら訴えるオフィーリアの言葉に、ロザリンドの脳裏にプロテュースの言葉が掠めた。
『まぁ、子猫ちゃんが大変な目に遭わないと良いんだけど?僕はそれだけが心配だよ』
(まさか、この事態を予想していたの?)
上の空なロザリンドに、オフィーリアを慰めていた令嬢が怒りを露わにして腕を振り上げた。
「ちょっと、あんた!さっきから何なの!その態度!」
騎士科で学んだ護身術で身を守ろうとしたが、ロザリンドの背後には窓ガラスがある。令嬢に被害が及んではいけない。
殴られる覚悟を決めたその瞬間、ロザリンドの前へ影が割り込んだ。
日差しに踊る黒髪が紫に光を放ち、宝石のように閃く眼差しは鮮やかな藤色を宿す。
疾風のように現れたその人は、令嬢の手を掴んで動きを封じた。
「何をしている!この学院には淑女しかいないと思っていたが?」




