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ロザリンド嬢は婚約破棄もお手のもの  作者: 礼三


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11/11

婚約者

 プロテュースは中庭の噴水近くのベンチへハンカチを広げて、ロザリンドへ座るように促した。

 それから、他愛のない話を独壇場で延々とまくしたてる。


「……でね。君が好きなもの、例えば花とか、色とかね。教えてほしいと思っているんだよ。女性はほらっ?花とか宝石とか好きだろう?化粧品とかも考えたんだけど、エイヴォンで最も流通している化粧品はフレデリックのものだろう?女性への贈り物を考えるの、好きなん…」


「あの、プロテュース卿!」


 しばらく黙って相槌を打っていたロザリンドだったが、終わらない一人会話に痺れを切らして区切りをつけた。

 

「『卿』?僕は婚約者だよ。卿なんて呼び方は堅くないかい?…で、何だい?子猫ちゃん」


(こっ、子猫ちゃん?)


 秀麗な翡翠の眼差しに吸い込まれそうになるロザリンドだったが、負けじと質問する。

 

「プロテュースきょ…様は女性の方々へ贈り物をなされたことがおありなのですね?」

 

「まぁ、そうだね」

 

「プロテュース様はおモテになられますよね?」

 

「あぁ、どうしても、僕のような花には寄ってくる蝶もいるものさ」


 冷静に考えてみれば、これだけ姿形が良いのだ。プロテュースの発言から鑑みても、女性に困ったことはないだろう。

 

「私のようなものは蝶にもなれませんし…」

 

「まぁ、子猫ちゃんはどちらかといえば…。ミツバチかな?可愛い系?」

 

(辛うじて、益虫なのは喜ぶべきか?)


 ロザリンドは的外れなことを考えながら、慎重にプロテュースの動向を見極める。

 

「今もお付き合いされている方がいらっしゃるのでは?だって、こんなにお美しいプロテュース様ですもの、きっと皆様、別れたくないでしょう?」

 

 プロテュースの眉尻がピクリと動く。内心は

苦々しく感じているのだろうか、声音は非常に滑らかだ。

 

「君は嫉妬しているのかい?ごめんよ。不安にさせて…」


 プロテュースは手櫛でロザリンドの黒髪を梳く。男慣れしていないロザリンドは反射的に身を竦めた。

 

「こっ、婚約者ですもの、当然です」

 

「ふふ、確かに婚約者がいるのに他のご令嬢にも愛嬌を振りまくなんて…。子猫ちゃんが怒るのも無理はないね」


 ロザリンドの髪を一房だけ指に絡ませて、プロテュースは接吻した。


(待て待て待て、顔が近いのよ!その顔は目に毒!)


「整理しよう…」


 刹那、プロテュースの冷ややかな眼差しがロザリンドへ刺さる。


「まぁ、子猫ちゃんが大変な目に遭わないと良いんだけど?僕はそれだけが心配だよ」


「?」

 

「じゃあ、僕はそろそろ行くね。愛しているよ、子猫ちゃん」


 何やら不穏な台詞を投げ捨て、プロテュースは去って行った。

 

 ガサガサッ


 気配を感じて後ろを振り向くと葉の茂った木の枝を両手に持っているオリヴァーとベアトリスが並んでいる。


「あいつ、オレたちの気配に全く気づかなかったな」


「あぁ、騎士科だろう?こんなすぐそばで聞き耳を立てている私らに気づかないなんて、阿呆だな。真っ先に敵にやられるタイプだぞ。あれが上位成績に食いこむなんてな、三年生の程度が知れる」


(おいおい、ずっと盗み聞きしていたの?)


「調査したところ、下位貴族に手加減するよう言い含めているようだ。

『君たち、この僕の顔に傷をつけるなんて、金剛石(ダイヤモンド)を傷つけるようなものだぞ。君にその価値を損なう勇気はあるか?』

なんてな」


 オリヴァーは流し目で冷笑を浮かべ指先を伸ばし、プロテュースの動きを滑稽なほど華麗に再現した。


「確かに言いそうだな。しかし、ダイヤモンドは元々傷がつきにくい鉱石だぞ?あっそうか、剣の衝撃には弱かったっけ?まぁ、私なら粉々に砕くな」


 殺伐とした空気がベアトリスから漂う。


「騎士科の三学年は、プロテュース卿が一番の高位貴族だからな。誰も文句を言えないようだ」


 ロザリンドの顔色を窺いながら、オリヴァーが発言すると、ベアトリスが続けた。


「サマセット小公爵が魔法科でなく騎士科を選択してたらな。けちょんけちょんに負かしただろうに…」


「ファーディナンド先輩は学院最強と呼ばれてるからな」


 サマセット公爵家は魔法使いを輩出している名門であるが、ファーディナンドは剣技にも秀でていた。


「悪いことは言わん!あいつは止めとけ!」


 ロザリンドの横へベアトリスが腰掛ける。ベンチはギシギシと音を立てた。


「けど、私はこの顔でしょう?プロテュース卿を断ったら買い手なんてなくないですか?」


 冗談めいてロザリンドが笑うと、ベアトリスはムッとした表情で声を荒げた。


「はぁーーー!この私を見ろ!ロザリンドの方がずっと女の子らしくて、可愛らしいよ。こんな私でも好きだと言ってくれる婚約者がいるんだから、大丈夫だ!」


 ベアトリスの婚約者は、卒業と同時に入学した彼女とこれ以上離れるのが嫌で、学院に残ると駄々をこねたらしい。

 その様子は見物だったとミランダから教えてもらったことがある。


「よっ!ミノタウロス嬢!」


「お前、命が惜しくないようだな?」


 茶化したオリヴァーの首根っこを掴むと、ベアトリスは腕を回して絞めた。


「で?なんで、ロザリンドはそんなに自信がないんだ?私からすれば、素晴らしいご令嬢だぞ?」


 ロザリンドは黄金に輝く空を仰ぐ。


「昔のことです。幼い頃、『どブス』と言われたことがあるのです。前から自覚はしていましたけど、他人から面と向かって言われると…。まぁ、だからといって、自分の顔が嫌いなわけではありませんし、ただ人からは認められないんだなぁって…」


 血の気が引いて真っ青になっていくオリヴァーの顔色を認めて、ロザリンドは助言した。


「もう、許してあげたらいかがです」


「あっ、忘れてた…」


「ロザリンド嬢…」


 ベアトリスから解放されて涙ぐむオリヴァーはロザリンドの手を握りしめる。


「こんなオレと友達になってくれて、ありがとう」


「何を言っているんです?私こそ、友達になってくれて嬉しいのですよ」


 夕焼けで噴水がオレンジ色へ染まった。三人の姿が水面へ投影されて、ゆらゆらと揺蕩う。


「こんなときは夕陽に向かって叫びたくなるな…」


 黄昏色に瞳を潤ませ、オリヴァーはポツンと呟いた。

当初、予定した内容からかなり膨れてしまい、このGW中に書き上げるつもりでしたが、間に合いません。

執筆中に、プロットでは存在しなかったフェーベやベアトリス等々キャラクターが増え、作者的には10話で終えるはずだったのですが、えぇ、作者の悪い癖…。妄想が暴走しております。

皆様をお待たせしてしまうのは心苦しいのですが、明日から仕事ですので、ペースが落ちます。心よりお詫び申し上げます。

お待ちくだされば幸いです。

宜しくお願いいたします。


※この作品のキャラクター名,地名は、シェークスピア作品,関連からいただいております。

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