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第一話 突撃はつらいよ③
検問所を抜け、
丘陵へ向かう一本道から外れた時点で、
シドは足を止めた。
「……このまま行くのは、まずいな」
丘陵の麓には、帝国軍の陣が見えている。
旗。陣幕。兵の動き。どれもが“整いすぎて”いた。
「兵はいる。でも、俺たちの居場所は無い」
「つまり?」と寅二郎。
「今の俺たちは――どこの部隊にも属さない。
通せば不自然、通さなければ拘束対象だ」
リラも頷いた。
「研究員証が使えるのは“検問”まで。
前線じゃ、逆に怪しまれる」
前方から、伝令が駆け抜けていく。
別の丘では、魔法の光が一瞬だけ空を染めた。
「戦が動く直前だ」
シドは低く言った。
「動く前に、隙間に入る」
「隙間?」
「補給線。医療幕営。退避用の仮設陣地……
要するに戦場の“端”だ。
魔弾銃部隊がいるなら、必ずそこに出入りがある」
寅二郎は、無意識に左脇の重みを確かめていた。
「つまり――潜むってことか」
「そうだ。今は主役じゃない」
「おい」
「“今は”だ」
三人は進路を変え、丘陵の陰へと身を滑り込ませた。
砲撃の衝撃が地面を震わせ、土煙が遠くで上がる。
戦場は、確実に呼吸を始めていた。
(動け。だが、出るな)
(見るな。だが、聞け)
シドの判断は冷静だった。
しかし同時に――
三人は理解していた。
この“待ち”が、長くは続かないことを――




