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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第四章 帝国激震編
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第一話 突撃はつらいよ①

 魔弾銃研究所で思わぬ収穫を手に入れた寅二郎たち。


 戦場であるコルダ丘陵へと逸る気持ちを抑え、

 戦況確認のため検問所近くに宿を取ることにした。


 帝国特有の黒枠の窓は全て閉められ、ガラスにはテープで補強がしてある。通りに人の姿はほぼ見えず、いても足早に通り過ぎて行った。兵士も部隊単位で歩いている。時折遠くから爆音が轟き、焼けた匂いが風に運ばれ鼻をくすぐる。宿屋に着く頃ようやく音がしなくなった。


 寅二郎は部屋で“ニューナンブ”の手入れをしていた。

 鼻歌交じりのその横でシドが書き物を認め、

 ベッドに腰かけていたリラが口を開いた。


「思った以上に静かだね」

「ああ、

 レオンが来てから拮抗しているというのは事実のようだ」

「ふんふふーん」寅二郎は手入れに夢中だ。


「ねぇ、ここんとこトラジロウはこんなだけどいいの?」

「装備の手入れは大切なことだ。それがどうかしたか?」


「せっかく“相部屋”なのに寂しくないのかなぁ、なんて」


 シドの鼓動が一つ跳ねた。


 シドが女性であることに感づいてからのリラは時折、この手のからかいを入れてくるようになった。

(リラが打ち解けてきているのだと思いたいが…)

 シドは咳ばらいを一つ入れると、立ち上がった。


「それより、情報収集を兼ねて食事にしよう。

行くぞ、トラジロウ」

「え?何が」


ゴンッ!

 

「あ痛ぁ!何しやがるシド!」

「酒場へ行くと言っているだろう。はやく支度しろ!」

 いつもよりきつめの一撃を食らわせ歩き出し、

 寅二郎もその後を続く。


「ふふふ」リラも微笑みながら、酒場へと向かうのだった。


 酒場は薄暗かった。

 客はまばら。笑い声はない。

 あるのは、酒をあおる音と低い囁きだけだ。


「……聞いたか」

「レオン大将軍が前線に出てから、押しも引きもねぇ」


 カウンター越し、兵士崩れの男が酒を揺らす。


「魔王軍も引かねぇ。あの人が来て、ようやく拮抗だ」


「だがな……」


 男は声を落とした。


「研究所から、連中が来てる」

「……研究員?」

「魔弾銃だ。再編成中らしい」


 寅二郎の手が、杯を止める。


「昨日もな」

 別の客が口を挟む。

「壁が軋んだ。魔法だ。崩れるかと思った」


 ごくり、と誰かが喉を鳴らす。


「今は準備期間だ」

「だから検問も厳しい」

「身分の怪しい奴は通れねぇ」


 ——準備中。

 ——研究員。

 ——検問。


 情報は、揃った。


 酒を飲み干し、席を立つ。


「行くか」

「研究員さんよ」


 リラが小さく、トングの証を指でなぞった。


 外に出ると、遠くでまた爆音が鳴った。


――戦場は、すぐそこだった。

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