第一話 突撃はつらいよ①
魔弾銃研究所で思わぬ収穫を手に入れた寅二郎たち。
戦場であるコルダ丘陵へと逸る気持ちを抑え、
戦況確認のため検問所近くに宿を取ることにした。
帝国特有の黒枠の窓は全て閉められ、ガラスにはテープで補強がしてある。通りに人の姿はほぼ見えず、いても足早に通り過ぎて行った。兵士も部隊単位で歩いている。時折遠くから爆音が轟き、焼けた匂いが風に運ばれ鼻をくすぐる。宿屋に着く頃ようやく音がしなくなった。
寅二郎は部屋で“ニューナンブ”の手入れをしていた。
鼻歌交じりのその横でシドが書き物を認め、
ベッドに腰かけていたリラが口を開いた。
「思った以上に静かだね」
「ああ、
レオンが来てから拮抗しているというのは事実のようだ」
「ふんふふーん」寅二郎は手入れに夢中だ。
「ねぇ、ここんとこトラジロウはこんなだけどいいの?」
「装備の手入れは大切なことだ。それがどうかしたか?」
「せっかく“相部屋”なのに寂しくないのかなぁ、なんて」
シドの鼓動が一つ跳ねた。
シドが女性であることに感づいてからのリラは時折、この手のからかいを入れてくるようになった。
(リラが打ち解けてきているのだと思いたいが…)
シドは咳ばらいを一つ入れると、立ち上がった。
「それより、情報収集を兼ねて食事にしよう。
行くぞ、トラジロウ」
「え?何が」
ゴンッ!
「あ痛ぁ!何しやがるシド!」
「酒場へ行くと言っているだろう。はやく支度しろ!」
いつもよりきつめの一撃を食らわせ歩き出し、
寅二郎もその後を続く。
「ふふふ」リラも微笑みながら、酒場へと向かうのだった。
酒場は薄暗かった。
客はまばら。笑い声はない。
あるのは、酒をあおる音と低い囁きだけだ。
「……聞いたか」
「レオン大将軍が前線に出てから、押しも引きもねぇ」
カウンター越し、兵士崩れの男が酒を揺らす。
「魔王軍も引かねぇ。あの人が来て、ようやく拮抗だ」
「だがな……」
男は声を落とした。
「研究所から、連中が来てる」
「……研究員?」
「魔弾銃だ。再編成中らしい」
寅二郎の手が、杯を止める。
「昨日もな」
別の客が口を挟む。
「壁が軋んだ。魔法だ。崩れるかと思った」
ごくり、と誰かが喉を鳴らす。
「今は準備期間だ」
「だから検問も厳しい」
「身分の怪しい奴は通れねぇ」
——準備中。
——研究員。
——検問。
情報は、揃った。
酒を飲み干し、席を立つ。
「行くか」
「研究員さんよ」
リラが小さく、トングの証を指でなぞった。
外に出ると、遠くでまた爆音が鳴った。
――戦場は、すぐそこだった。




