第八話 侵入はつらいよ③
マゼルに食らった酸の治療に、
寅二郎は座って、リラの魔法による手当を受けていた。
へたり込んでいたトングが、
ようやく立ちあがり寅二郎たちへ言った。
「ありがとうございます。
やはり主任は魔族だったのですね」
「ああ、そうだな。
しかし、不穏なことを言っていたな。
『魔弾銃は完成しないよう。細工がしてある』と」
「はい、確かに魔弾銃には闇属性魔法の呪いが仕組まれていたのですが…私たちは“出力の微調整に必要”と教えられ触らせてもらえない部分が」
はっと顔を上げトングが言った。
「皆さん、ついてきてください。もしかしたら…」
走り出す勢いのトングに、
寅二郎たちは慌てて後をついていった。
連れてこられたのは別の部屋、
主任の部屋だというトングが金庫の前で言った。
「この中に魔弾銃が残っているかもしれません。
厳重な封印がしてあって中を見たことは無いですが、今までの魔弾銃のプロトタイプと言えるものがどこかにあるはず…」
「それがここってことか」
「しかし、厳重な封印魔法がしてあるな。
しかも闇属性由来だ」
シドが金庫に浮かぶ封印術式の光を見て言った。
「それなら私、出来るかもしれない」
リラが前へ出ると、すっと目を閉じ詠唱に入った。
「慈愛と救済を司る女神よ
歪められた因果を正す清浄なる法の力よ
この身に刻まれた呪いを解き、
闇の干渉をすべて退けよ
――《カースキャンセル》」
すると、金庫の前で漂っていた術式の光が消え失せ、
カチリと音が鳴った。
トングが金庫を開くと、中には箱が二つあった。
「あった!これです」
トングが箱を一つ取り蓋を開けると、
中から魔弾銃が出てきた。
リボルバータイプの様にボディが太い筒状になっており、重厚な黒鉄のそこかしこには術式が刻印してあるのが分かる。金庫と同じ封印がしてあるのが見え、リラが解呪した。
その光景を見ながら、
深く考え込んでいたトングが言った。
「皆さん、コルダ丘陵へ行くのですよね」
「ああ、ベルゼと決着をつけてやる」
「なら、その銃を持って行って下さい」
「いいのか?」
「やはり、魔弾銃は“禁忌”であるべきです。
そう確信しました。
その銃もまだ安全であるかも分からず、
お渡しするのは心苦しいのですが」
「ああ、いざという時まで使わないさ」
寅二郎が胸を叩き、
「そうだな。一段落ついたら破壊しよう」
シドが言った。
「それより、箱はもう一つあるけど?」
リラが金庫を覗き込む。
「何だろうな、開けてみるか」
と寅二郎が箱を手に取り、机の上に置いた。
「おい!これ」
寅二郎が蓋を開けてみると、中には拳銃“ニューナンブ”が入っていた。ご丁寧に、ホルスターと並べて置いてあり、油の匂いが、昨日磨いたかのように残っている。
「これ、触っていいか?」
返事を待たずに寅二郎は手に取っていた。
反射的に、銃口を床へ向けた。
考えるより先に、右手の親指が側面のラッチにかかる。
かちり、と小さな音。
シリンダーが左へ滑り出た。
覗き込む。
六つの穴のうち、五つは空。
一つだけ、鈍い鉛色が残っている。
「……一発か」寅二郎が呟く。
指先で確かめるように、シリンダーを元に戻した。
金属が噛み合う感触が、妙に懐かしい。
「……体が覚えてる。すげぇなじむな」
寅二郎の流れるような所作に、
皆見とれていたが、トングが言った。
「たぶん、
昔の召喚者が残したものを、
見本として確保していたものかと。
それも是非お持ちになってください」
「ありがとう。もらっていく」
寅二郎はそう言うと、ホルスターを手に取る。
革紐の長さを測る。
そのまま頭から通し、ホルスターを左脇へ滑らせた。
肋骨に沿う位置。
心臓の少し下。
腕を下ろすと、どこにあるかが分かる。
「……ここだな」
左脇に銃
右手で引き抜く
動作確認を終えた寅二郎の背中に、シドが声をかける。
「行くか」
「ああ、行こう。決着を付けに」
――行先は激しさを増す戦場。
しかし一段頼もしさが増した寅二郎と共に、
一行は外へと歩き出す。
「な?俺が主人公だろ」
「まだ言っていたのか」
そう返しながらも、
シドは顔の火照りを隠すように、
いつもより足早に歩き出した。




