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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第三章 ガルディア帝国編
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第八話 侵入はつらいよ②

 階段を降りると廊下へ出た。いくつか部屋の扉が見え、天井では等間隔に白いライトが廊下を照らしていた。少し寒いがそんなことよりも、シドが言った。


「人の気配がしないな」


 ただ静寂だけがあり、生活している雰囲気があまりにも無かった。三人があたりを見回していると奥の扉が開いた。


「やばい!」


 寅二郎が声を上げると同時にシドは扉に向かい走り出した。顔が見えた瞬間黙らせようと、シドが拳を繰り出すが、その顔面直前で拳を止めた。


「ひぃ」


 そこにいたのはトングだった。

 へたり込むトングに寅二郎たちが歩き出す。


「みなさん、あの夜の冒険者さん。

 そんなことよりどうやってここに?」


「俺たちはやばい動きがあるっ

 て、言うんで調査していたのさ」


「すまなかったな。今どんな状況なんだ?」

 トングに手を差し伸べながらシドが尋ねた。


「それが、皆さん急遽コルダ丘陵へ行くよう言われたらしくて…」


 トングは立ちながら言った。研究員たちは今朝、急に主任からコルダ丘陵への出向を命じられ、開発中の魔弾銃を持って出て行ったのだという。


「魔弾銃研究は完成していたのか!」


 寅二郎が声を上げる。


「いえ、最終段階ではありますが、

 まだ完成とは言えないはず……何ですが」

 トングも困惑顔。

「事態も事態だ。主任とやらに直接尋ねるしかないな」

 シドの言葉に、

「主任に、直接、ですか」

 不安げな表情を浮かべるトング。

「案内してくれない?」

 そっとトングの手を取り、リラが寄り添う。


「分かりました。こちらです」

 まだ不安そうだったがトングは歩き出した。


廊下を進むことしばし、大きな扉の前でトングは止まった。


「この中で、主任も最終調整しているはずなんです」


 中へ入ると、実際に発砲実験等が行われるのだろう。空間が広がっていた。奥行きもあり地下とは思えない広さだった。その奥で白衣を着た主任マゼルがこちらを向いて立っていた。


「ようやく来たね。待っていたよ」


 そう言うとこちらに向かい歩き出した。


「主任、何が起こっているんですか?

 この状況は…」トングが震える声で言う。


「言った通りだよ。

 みんなには魔弾銃の最終確認のため、

 コルダ丘陵へ出向いてもらった。

 まぁ、あちらで死ぬことになるだろうけどね」

 そう言うとマゼルが白衣を投げ捨てる。


「そんなことより、お前がトラジロウだな」

 マゼルが寅二郎を見て笑う。


「ベルゼさまに盾突くお前がついにここまで来たか」

 マゼルの言葉に寅二郎たちが身構える。


「ここで貴様を殺せば、

 魔王軍での地位も上がろうというもの、

 人間相手に実現しない実験を誘導するのも、

 飽き飽きしていたところだ」


 歩みを止めないマゼルから黒い煙が上り、

 体が緑と黒の斑に変色していく。


「そんな、まさか…」


「気づかなかっただろ?

 すべての銃に俺が細工を施していたのだよ」


 そう笑うマゼルの口は大きく裂け瞳は大きく膨らんで、舌が足元まで垂れ下がった。


「蛙のバケモンかよ!」寅二郎が剣を抜く。


「全員この場で死んで行け!」


 同時にマゼルの舌が寅二郎に襲い掛かる。寅二郎が剣で受け止めると重い金属音が響く。


ガインッ!あまりの圧力に寅二郎が押し込まれた。


「野郎!」寅二郎の言葉の裏で、シドが側面へと周りマゼルへと走り出す。


「風よ!」得意の風魔法で牽制しながら距離を詰める。あまりの展開の速さにたじろいでいたリラも、トングの傍で詠唱を開始した。


「女神よ——その慈愛を貸し与えたまえ…!

 光よ、穢れを退け護りの壁となれ…!

 仲間を包み、傷つくことを許さぬ盾となれ

——《サンクチュアリ・シールド》!」


 柔らかい光の膜で覆われた寅二郎たち。すぐにリラはトングの前に立つと次の詠唱を開始、光の結界を作り出していた。


「助かるぜ、リラ!」


 寅二郎は舌を叩き落とし、そのまま前へ出た。シドの連撃と呼吸を合わせ、剣を振り下ろす。だがマゼルは後退し、天井へと跳躍した。


「鬱陶しい……!」


 張り付いたまま、巨大な水球を吐き出す。

 床に落ちたそれは白煙を上げ、腐食音を立てた。


「酸か!」シドが歯噛みする。


 縦横無尽に跳ね回るマゼルの視線が、リラを捉えた。


「まとめて消えろ!」


 特大の酸塊と舌が、同時にリラへ迫る。特大の酸の塊を受け光の壁が破れ、リラの顔面に舌が迫る。リラは思わず目を瞑る。しかし、その瞬間、寅二郎が舌を掴みリラに覆いかぶさっていた。酸の雨の中、背中から白い煙を上げながら寅二郎が言った。


「大丈夫か、リラちゅわん。守るって言っただろ?」

「トラジロウ…」


 涙を浮かべるリラの背後で、

 拘束されたマゼルの首が一閃で落ちた。


「……終わりだ」


 首を断ったシドの声だけが残る。


 崩れた地下室には、

 リラのすすり泣きが静かに響いていた。

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