第七話 勇者PTヴァルニスへ行く⑪
数日後。
使節団はヴァルニスを発ち、王都への帰路についた。
豪奢な馬車から、アンナたちは海を眺めていた。
修行と戦いの日々を過ごした海は、今は驚くほど穏やかだ。
「……結局、クラーケンだけじゃなかったんだよね」
リルルがぽつりと呟く。
「ええ。原因は“人”の方が重い」
ヤスコが静かに答える。
アンナは何も言わず、潮風を受けながら剣の柄を握り直した。
トンペティの言葉が、まだ胸の奥に残っている。
(勇気と無謀は違う……)
強くなる理由を、もう一度問い直す時間だった。
一方、騎馬で進むエルザの認めた報告書は、
早馬で先に王国へと送られていた。
帝国製武器の流入を確認。
武装船団による定期航路が存在。
魔物被害海域と一致。
ヴァルニスは“供給地”であり、主因ではない。
こう最後に書き加えられた報告書の意味は重い。
あくまで使節団としての帰途であったが、
エルザははやる気持ちが抑えきれなかった。
王都・謁見の間。
報告を読み終えた国王レオニス四世は、深く息を吐いた。
「……やはり、帝国か」
居並ぶ重臣たちの間に、低いざわめきが広がる。
「ヴァルニスは利用されているに過ぎぬ」
「だが武器供給と魔物増加が連動している以上、
放置はできません」
「下手に触れれば、国際問題になりますぞ」
国王は玉座の肘掛けに指をかけ、ゆっくりと言った。
「だからこそ――
“勇者”が必要なのだ」
重臣たちの視線が、一点に集まる。
「表の外交では辿り着けぬ場所がある。
帝国の内側を見ねば、真実は掴めぬ」
沈黙。
「正式な決定は、時を待つ。
だが……準備は始めよ」
ようやく王国へと凱旋した一行。
その夜、大聖堂に隣接した宿舎に戻ったアンナは窓辺に立ち、夜の王都を見下ろしていた。
遠く、帝国の方角に広がる闇。
まだ見ぬ戦場。
まだ知らぬ選択。
(次は……あっち、なのかな)
胸の奥で、小さく鼓動が強まる。
こうして――
勇者PT《暁の翼》の進路は、
静かに“帝国”へと向けられ始めていた。




