第七話 勇者PTヴァルニスへ行く⑦
翌朝よりアンナたちの修行が始まった。
重石の付いたサンダルを履き、海へと肩まで入るとそれぞれ木製の剣や槍を持ち振る。全身で海水の抵抗を感じながら一心不乱に振り続けた。
「海水をマナであると感じよ。肌で周りに満つる流れを見極めるのじゃ」
(全身にまとわりついて、重い。だけど確かに流れを感じる)
陸上とは違う感触に戸惑いながらも、修行を開始したアンナたち《暁の翼》。
その一方で、友好使節団として同行しているエルザはリ・エスティーネ王国国王レオニス四世の密命を受け、市場調査へとおもむいていた。
(国王は、ヴァルニスと帝国との接近に違和感を感じたそうだけど……)
朝早く立つ市ではそこらじゅうでセリの声が上がり盛況だ。聞けば戦時下の帝国に食料としての需要が増え海産物の輸出が大幅に増えているという。「他人様の不幸で儲けるようで申し訳ない気持ちもあるが、こちらも商売なんでね…」と、商人の男が苦笑いで教えてくれた。
(確かに帝国との貿易が盛んであるようだけど、
違和感と言えるものではないような……)
エルザはミラステラの町を歩いた。市から始まり官公庁やギルドなど方々歩き回って夜が近づいてきた。(あとは…)とエルザが見つめているのは中心部から少し離れた倉庫街。噂では夜毎“闇市”が立つという危険地帯だ。
夜の倉庫街は、昼とは別の生き物だった。
魔導灯の淡い光が倉庫の隙間に灯り、人の流れが静かに集まってくる。
声は低く、笑いは短い。
取引は目配せと手振りだけで進み、誰も余計なことを口にしない。
エルザは外套のフードを深くかぶり、その流れに溶け込んだ。
倉庫の奥、木箱が積まれた一角。隙間から覗くのは新品の武器だった。刃は潮による錆びもない。刻印は削られているが、鍛造の癖までは隠せていない。
(帝国式……)
何よりエルザが気になったのは、武器への“付与効果”だった。
(これは聖属性の加護を断ち切る付与。つまり……“対人武器”だ!)
聖ローマン教を筆頭に、対魔物への対策として誰もが思い浮かべる聖属性の加護。それを消してしまう効果が付与されている。
視線を逸らし、足を止めずに進む。海沿いの桟橋には黒塗りの大型船が横付けされていた。護衛用の弩と魔導砲を備えた武装船。荷揚げは無言で、無駄がない。軍の作業だ。
その下、海面が不自然に揺れている。
魚影ではない。逃げもせず、影が密集して蠢いている。
(……魔物)
潮の流れが歪んでいる。マナも同じだ。武器が流れ、金が動き、歪みが生まれる。その歪みは、必ず海へ出る。
エルザは踵を返した。
今は、これ以上踏み込むべきではない。
背後で取引が続く中、波間に鈍い影が一瞬浮かび、そして沈んだ。




