第七話 勇者PTヴァルニスへ行く⑤
翌朝、アンナたち《暁の翼》一行は、
老師トンペティの住居兼道場である“武聖楼”へとやって来た。
海風除けだろう生垣に囲われた門を抜けると、左手に居住スペースらしき建物と右手に大きな道場らしい建物が見えた。
どちらもこちらの世界では珍しい木造建築で屋根には瓦が葺いてあり、アンナたちは懐かしい“和”の雰囲気を感じざるを得なかった。
「わぁなんか懐かしいね」リルルは早速はしゃぎ、
「ホントね、なんか帰ってきたって感じがする」ユキナも喜び、
「ああ、向こうでは皆元気でやっているのだろうか」
「前を向いて生きていてくれたら嬉しいのだけど」
アリアとアンナは前世の実家へ思いをはせた。
皆、思い思い感じ入っていたが、ヤスコが道場を向いて言った。
「早速やっているようだね。熱心な声が聞こえる」
皆が顔を向けると、確かに道場の方から掛け声がこちらまで聞こえてきた。
「セイ!」「エイ!」その声に導かれるようにアンナたちは道場へと入った。
中では20人程の弟子たちが向かい合い、組打の稽古をしていた。荒くれ者が多いのか女性の姿は見えない。その奥の一段高くなった場所で胡坐をかきながら、稽古の様子に目を配っている老人が見えた。
武聖トンペティだ。
頭は丸め、黒いサングラスに白い口髭は両端でカールしている。伸びた顎髭にやっていた手を膝に置くと、アンナたちに向けて言った。
「来たな。こっちじゃ」
立ち上がり歩き出すと、弟子たちが道を開ける。トンペティはアンナたちの前へと立った。立ち上がったトンペティは背丈はユキナと同じくらいの小柄、アロハシャツに茶色の短パンといういで立ち。手足も痩せて細いが、握りこぶしから親指と小指だけ立てて「アローハァ」とこちらへ振っている。アンナたちは思った。
(なんか、ノリが軽くない?)
「おはようございます。老師トンペティ。私たちは《暁の翼》と言います」
代表してアンナが言った。
「うむ、勇者御一行だな。
マルセロから聞いておる。稽古をつけてくれと頼まれた」
「はい、よろしくご指導ご鞭撻のほど…」
「ではまずは装備を外せ、うちは基本無手なのでな」
トンペティの言葉に従い、装備を脱ごうとし始めた一行。その後ろでは弟子たちから一斉にため息が聞こえてきた。「またか…」なども聞こえアンナたちは不安を感じた。
そして、アンナが胸甲を外し足元に置いた瞬間。老師トンペティはアンナの後ろに回ると、アンナの胸を鷲掴んだ!
「いっただきぃ!」
「な!」呆気にとられるアンナ。
「ふむ……たしかに鍛えておるのぉ」と、すかさず太ももを撫でられて、一瞬で怒り心頭し振り返ったが、トンペティはそこにはいない! 見ると次にはユキナ、アリア、リルルにヤスコと次々に背後に回っては胸や尻を撫でまわり、「たまらんのぉ」と猫なで声を上げていた。
「この変態がぁ!」怒りの赴くまま飛び掛かるアンナ。トンペティの顔面目掛けて思い切り拳を振りぬいた。しかし、寸でのところで回避される。「うむ、思い切りのいい突きだ」とその場で胡坐をかくトンペティ。そこから追いかけるアンナと逃げるトンペティの追いかけっこが始まった。
「ああ、始まったよ。老師の悪い癖」
「あんなだから、女性が誰も寄り付かないのに…」
「ああやって身体能力を図っておられるのだ。多分…おそらく」
弟子たちの声を聞きながら、ヤスコが一歩前に出た。
「ねぇ老師ぃ私ともっと遊びません?」
片膝に両手を添えて胸を寄せ、谷間を強調したままトンペティへ言った。
「うっひょぉ!遊ぶ!遊ぶぞい!」
瞬間、ヤスコの胸の谷間に顔をうずめたトンペティだったが、ヤスコに両手で頭を掴まれた。
両側から真っ赤な顔をしたアンナとアリアも加わり、
「はい、遊びましょうねぇ……」と両手を捕まえられると、
「ぎょええぇ!」トンペティの叫びが屋敷中に響き渡った。
そして道場にいたすべての人の心の声が一つになった。
(大丈夫か?この人)
そして肩で息をしながらもアンナが呟いた。
「……これが、ヴァルニス最強の武聖?」




