第七話 勇者PTヴァルニスへ行く④
その夜、歓迎式典が華やかに執り行われた。アンナからリ・エスティーネ王国の書状をマルセロへと渡し、マルセロが書状を読み上げ“勇者顕現”を公式に宣言。「五大国の一員としてヴァルニスも勇者に協力を惜しまない」旨も宣言し、その証として書状に印をついた。
そして歓迎の宴が始まった。式典とはまた違う大きな部屋へと移ると、バルコニーからそよぐ海風がカーテンを揺らし、楽団が音楽を奏で貴族階級たちが踊っている。その周りではテーブルクロスの掛けられたテーブルが幾つもならび、海をイメージした青いランプが灯されて、海洋国家ご自慢の料理の数々にみな舌鼓を打っている。それらが見渡せる一段高くなった特別席で、国主マルセロとアンナたちも食事と歓談に興じていた。
「どうかね?うちの自慢の料理たちは。
リ・エスティーネ王国にも負けない自信があるよ」
マルセロが誇らしげに《暁の翼》の面々へと目を向ける。
「おいしい!」リルルがロブスターにかぶりつき、
「本当に。自然と笑顔になってしまいます」ユキナが白身魚のソテーを味わい、
「どれも新鮮なのがすぐわかります」とアリアはマリネを口に運び、
「それにこのワイン。格別よね」ヤスコはほんのり赤くなっている。
(みんな楽しそうなのに……私だけ肩に力が入ってる)
皆楽しく会話を続ける中、口数の少ないアンナにマルセロが言った。
「まだ緊張しているようだね。
勇者の重責、私には計り知れないが」と前置きし、
「それでも船長は目標を見失わないことだ。
海でも凪の時もあれば、時化る時もある。
読み切れないこともたくさんある。
そういう時こそ、
船員のためみんなのためって気持ちで事に当たる」
「みんなのため、ですか」
「ああ、そうした背中を見せれば、自然とみんなが付いてくる。
なんとかなるもんだよ。そういう時は」マルセロが微笑む。
「背中、ですか……」アンナは寅二郎の背中を思い出す。
「大丈夫!君はしっかりやっている。自信を持っていいんだ」
「はい!ありがとうございます。マルセロ卿」アンナは微笑んだ。
(まだ“あの背中”は遠い……けど、いつかは私だって)
「さて、話はいきなり変わるのだが、
君たちにとって凪だか時化だか嵐だか分からないが、
明日老師トンペティに会ってもらう」マルセロが切り出した。
海沿いに道場を開いている武聖トンペティ。商業都市国家群ヴァルニスに名を知らぬ者のいない大物で、国家中枢はおろか、ギルドにも顔が効く。軍事顧問としてヴァルニスの警備組織“連盟警備団”に稽古をつけている。
「俺、いや私も昔大恩を受けてね。頭の上がらない人なんだ。なかなか大変な…いや、個性的な人だけど、頑張ってもらいたい」含みのある言い方をするマルセロ。
「老師って……どんな人なんだろ」リルルが首をかしげ、
「個性的って言い方が一番ヤバいのよ」ヤスコも言い、
皆が老師に思いをはせたが、
「実力はあるんだ。実力は。
さぁヴァルニス自慢の料理はまだまだあるぞ。
今夜はとことん楽しんでくれたまえ」
マルセロの声が一段大きくなり、側近の一人が思わず肩を震わせた。
アンナたちはそこにはそれ以上触れず歓迎の宴を堪能したのだった。




