第六話 潜入はつらいよ⑥
翌日、早朝から三人は研究所潜入に向けた情報収集を開始した。
出入りする人間の数、種類、そのルーティーン。研究所の外壁を周り規模や出入りできる場所はないか等丹念に。
「情報は多いに越したことは無い」夜には宿で検討会だ。
「帝国軍人とドンパチしたいわけでも無いしな」
「そうね、安全が第一よね」
「魔弾銃の試作品現物でも手に入れば上出来だが……」
「じゃ、ここらで一旦、酒だ!酒!」寅二郎が立ち上がった。
「もう、緊張感無いわね」リラがため息をつき、
「お前、事の重要さがわかっているのか」
シドがにらみつけるのを手で制しながら、
「わぁってるよ!酒場で情報収集だろ。情報収集!」
寅二郎は意気揚々と歩き出した。
二人も渋々といった態で酒場へと向かった。
「何だ、お前らまだいたのか」
酒場の店主がエールを差し出しながら寅二郎に言う。
「ああ、何だか騒がしくなりそうだと聞いてな」
寅二郎がエールを受け取り答えた。
「そうだな、東の城壁門を抜けた先にコルダ丘陵ってのがあるんだが、
そこへいよいよレオン大将軍が着陣なさるって話だ」
「ほお、レオン大将軍がねぇ」
三人の脳裏に、
アムステルドで出会った黒鎧の騎士の姿が蘇った。
「大戦になるってんで、
研究所からも随分人が出て行っているらしい。
ほら、あの娘も研究所の研究員さ」
三人が振り返ると、ドワーフ族の娘、トングが店に入り、
「エール下さい」と席に着くところだった。
寅二郎たちは視線を合わせ、頷きあう。
シドが店主からエールをもう一つ受け取り、三人でその席へと向かった。
「ここ、いいかな?」シドがエールを席に置きつつ、トングに話しかけた。
「はい?どちら様ですか?」トングが訝しげに見上げる。
ドワーフ娘らしくずんぐりむっくりした体躯ながら、
表情には明らかに疲れが見えた。
「やぁもっこりちゃん。疲れた顔をしているね。
俺ともっこりストレス、発散しないか?」
すかさず寅二郎の両側から平手が飛んで頬を挟まれた。
「ぶほ」
「失礼。俺たちは冒険者でね。
大戦の噂を聞いて取り入れないかと色々聞いて回ってるんだ」
「あなた、研究所の研究員らしいわね。研究所ってどんなところ?」
シドとリラ、二人の質問が終わった途端、
ガタッ!
「研究所……何もないです。何も!」
トングは立ち上がり酒場を出て行ってしまった。
(あの態度、あの娘何か知ってるな)
シドが思案しているその酒場の屋上で、
白衣を着た男、マゼルが舌なめずりしながら呟いた。
「あいつらが噂の……面白い。もうすぐ会えるかな」
満月と監視塔からの光が乱舞する夜空に男の姿は消えて行った。




