第六話 潜入はつらいよ④
あくまで慎重に、しかし速度を重視して、
寅二郎たちは夕刻の帝都レギオンブルクを出発した。
入場時には厳しかった検問所も、出て行く者には大した審査を行わない。
馬を牽き検問所を通り抜けようという三人。
「この時間から外へ行くのか?」
憲兵に声をかけられリラの鼓動が跳ねる。
「急ぎの依頼を受けてね。いやぁ冒険者稼業も楽じゃないよ」
寅二郎が苦笑いを浮かべ答えた。
「はは、そりゃ大変だ。道中気をつけろよ」
兵士への転職まで薦められ、和やかにその場を切り抜けた。
そして、数日馬を走らせた三人はコルンハーグへと到着した。
コルンハーグ外縁部の検問所は、戦時下らしく異様な緊張に包まれていた。
魔鉱灯の光の下、帝国軍兵が旅人の荷を一つ一つ改めている。
三人も列に並び、商人風の外套で身を包んでいた。途中の町で馬車を買い、寅二郎は荷馬車の持ち主になりきり、シドは黙したまま荷台の横を歩く。リラは緊張のあまり袖を握りしめていた。
「次。身分証と通行許可書を」
兵の鋭い目が三人を舐めるように見たが、寅二郎が落ち着いた声で答え、帝都で買ったばかりの“安物の偽証紙”を差し出す。
「……安物の紙だな」
兵が低く言い、指で証紙を弾くように撫でる。
「それに、荷も積んでいないようだが」
リラの手に汗が浮いた瞬間――
「今は戦時下、こちらで武器を買い付けようって算段でして」寅二郎が言う。
「ふん、まあいい。商人風情に割く時間はない。通れ」
兵の背後では、別の旅人が荷を全部ぶちまけられていた。
「……通れ」
三人が歩き出した瞬間、リラは声もなく息を吐いた。
コルンハーグの城壁門を抜けた瞬間、
三人は思わず足を止めた。
石畳の広い大通り。
両脇に立ち並ぶ建物は、帝都よりさらに無骨で、
窓という窓に黒鉄の格子がはめ込まれ、
街灯の代わりに魔鉱灯が青白い光を落としていた。
「……うへぇ、なんか“工場地帯の町”って感じだな」
寅二郎が小声で漏らす。
「当然だ。ここは帝国軍の兵站・研究の要衝。
治安は良いが、自由はほとんどない」
シドが周囲を観察しながら答える。
大通りを歩く者たちも、どこか硬い。
商人に見えても荷は厳重に包まれ、
労働者たちは喧噪の代わりに殺気立った疲労感を漂わせていた。
その中でも、ひときわ目を引くのは――




