第六話 潜入はつらいよ③
――コルンハーグ“帝国軍事技術研究所”
広大な敷地に建つその建物の地下に、
上層部しか知らない“それ”があった。
《帝国諜報部魔弾銃研究室》
ベルンの壁と同じ、黒光りする魔鉱石で作られた堅牢な地下スペースで、
禁忌の技術、魔弾銃が日夜研究・開発されている。
地下の空気は乾いて重く、
まるで生き物の息遣いが根に張りついているようだった。
「主任、駄目です。出力安定しません!」
「砲身が圧力に耐えられません」
魔法工学、魔法物理学、さらには鍛冶職人まで。
帝国のエリートたちが集められ、魔弾銃完成のための戦いを続けていた。
「すみません、少し休憩してきます」
そんな中、一人のドワーフ族の娘、トングが休憩室に入った。
扉を閉め、誰もいないことを確認すると、その場に頭を抱えしゃがみ込んだ。
「なんで、こんなことに」トングは震えだした。
トングは見てしまったのだ。
魔弾銃の発砲実験を行ったあの日、魔弾銃が暴発したあの時、魔弾銃が吹き飛び同僚の手を吹き飛ばしたあの瞬間。
破片が飛び散り、主任にかすめたあの瞬間、
肩口を切り裂かれた白衣から黒い煙が上がったのだ。
同僚が叫び、混乱の極みにあったあの場でトングだけがそれを見た。
(主任は魔族だ!)
誰が味方で、誰が敵か、も分からなくなってしまったトング。
「誰か助けて」とても小さくトングは呟く。
コンコンっ
扉を開けて入ってきたのは、主任マゼルだった。
「トング君、大丈夫かい?具合が悪そうだと聞いたのだが」
平坦な物言いにトングは息をのむ。
「はい、すみません。最近眠れなくて」
何とか平静を保とうと、言葉を紡いだ。
「うむ、最近無理を重ねているからね。
事故も起こしてしまったし、
一度みんなで休養を取るべきかもね」
労わっているつもりだろうが、感情が一切見えない。
「しっかり、休んでまたがんばろう」と言い残し、
マゼルは休憩室を出て行った。音も無く出て行くその背中を見送り、
(誰か助けて!)
再びトングは願った。今度は心の中で。




