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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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第十一話 異世界はつらいよ④

 ガルディア帝国は解体され、かつての国割りが復活した。

 各国の王が集う諸侯会議によって、旧帝国領全体の方針を決める新たな体制が始まったのだ。かつての帝都レギオンブルクも、今や一つの王国。


 レギウス城のテラス。 

 見渡す限りを埋め尽くす国民の前で、アンナは戴冠式に臨んでいた。

 アンナ自身の希望により、

 聖ローマン教の聖母マリアがその頭上に王冠を授ける。


 王冠を授けられたアンナに、国民から大歓声が上がった。


「皆さん。私は“勇者”としてこの世界に召喚されました。

 そして“希望の象徴”として国を越え闇を払いました」


 日を浴びて輝く王冠、その下にさらに輝くアンナの笑顔。


「そんな中、皇帝陛下が崩御なされ、世界は混乱するでしょう。

 しかし私は、今度は皆さんと共にこの混乱する世界を歩きたい。

 この、レギオンブルクの王になることで!――」


 アンナの宣言に、レギオンブルクが揺れた。国民の歓声によって。




 そんな歓声響くレギウス城のすぐ傍に、

 野戦病院よろしくテントが幾つも建っていた。

 “スタンビート”制圧中に、“ゴーレム部隊”が突然沈黙。

 ダンジョン内に負傷者が続出したのだ。


 そんな負傷者を一手に引き受け、ユキナたち救護班が治療に当たっている。

 その指示のもと、負傷者を運ぶ者、医療器具を用意する者――看護兵たちが、あちこちを走り回っていた。


 そんな光景を眺めながら、寅二郎はどこぞへと歩いていく。


「トラジロウ!」


 そんな寅二郎にリラが声をかけ、走り寄ってきた。


「よう。大変そうだな」と寅二郎は眉を寄せ、声を上げる。


「だけど、ユキナもみんなも頑張ってる。

 そうやって“みんな”でこの世界を生きていきたいから」


 リラは俯き、拳を握った。


 負傷者を運ぶ声が響き、看護兵たちが慌ただしく行き交う。


「だから! 私はいっしょに行けない!」リラは叫んだ。

 寅二郎を見つめるリラの体が震え、その瞳から涙が零れた。


「行くんでしょ? トラジロウ」リラが呟き、

「ああ、そうだな」寅二郎が答える。


「もう私は一人で立つ。立たなきゃいけないの。

 だって“あなたたち”の背中を見続けてきたから」


 リラは涙を流しながら寅二郎の目を見ている。


「“あなたたち”の隣に立ちたい!

 だから私は、ここで! ひとりで! 立つの!

 だから、……私は一緒には行けません!」


 溢れだすリラの涙を見つめ、ふいに寅二郎は背を向けた。


「待ってる。リラが“隣に立つ日”を、な」


 そう言って、寅二郎は後ろ手を振って歩き出した。

 リラの視線を背に受けながら、寅二郎は城門を抜けた。

 そこにはシドが待っていた。


「いいのか?シド」寅二郎は歩き続ける。

「何がだ?」シドも歩き出す。

「俺は“お尋ね者”らしいぞ?」

「違うな。俺たちは“冒険者”だ」

「はは、そうだな」

「それに俺の居場所はもう、決まってる」


 そうしてシドが寅二郎と並び歩く。


「ここが俺の“立つ場所”だ。俺の“居場所”だ」


 シドが微笑む。

 その笑顔を見て、寅二郎も微笑み、頭の後ろで腕を組んだ。


「なら、行こうか。“相棒”」

「ああ、行こうか。次なる冒険へ――」


 そして二人は歩き出す。

“魔王”も“皇帝”もいない世界へと。

 世界の秘密を抱え、命を狙われるかもしれない。

“英雄への道”も“世界を救った実感”も無い。

 その上、何の当ても無い旅へ、一歩踏み出した寅二郎が最後にぼやく。



「異世界はつらいぜ」



 アンナへ向けた歓声が未だ響くレギオンブルクの空、

 晴れ渡る青い空に白い雲が流れていく。


 しかし、その空の向こうでは黒い雲が――。


「なんでだよ!」


異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~

第一部マナ秩序崩壊編―完―

第一部「マナ秩序崩壊編」、これにて完結です!


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!


寅二郎たちの旅は、まだまだ続きます。

第二部も投稿予定ですので、引き続きよろしくお願いします!


切りもいいので、新作「妖刀オロチ~最後の継承者~」を投稿しました。

ちょっとダークな和風ファンタジーです。

全三話。よろしければそちらもよろしくお願いします。

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