第十一話 異世界はつらいよ④
ガルディア帝国は解体され、かつての国割りが復活した。
各国の王が集う諸侯会議によって、旧帝国領全体の方針を決める新たな体制が始まったのだ。かつての帝都レギオンブルクも、今や一つの王国。
レギウス城のテラス。
見渡す限りを埋め尽くす国民の前で、アンナは戴冠式に臨んでいた。
アンナ自身の希望により、
聖ローマン教の聖母マリアがその頭上に王冠を授ける。
王冠を授けられたアンナに、国民から大歓声が上がった。
「皆さん。私は“勇者”としてこの世界に召喚されました。
そして“希望の象徴”として国を越え闇を払いました」
日を浴びて輝く王冠、その下にさらに輝くアンナの笑顔。
「そんな中、皇帝陛下が崩御なされ、世界は混乱するでしょう。
しかし私は、今度は皆さんと共にこの混乱する世界を歩きたい。
この、レギオンブルクの王になることで!――」
アンナの宣言に、レギオンブルクが揺れた。国民の歓声によって。
そんな歓声響くレギウス城のすぐ傍に、
野戦病院よろしくテントが幾つも建っていた。
“スタンビート”制圧中に、“ゴーレム部隊”が突然沈黙。
ダンジョン内に負傷者が続出したのだ。
そんな負傷者を一手に引き受け、ユキナたち救護班が治療に当たっている。
その指示のもと、負傷者を運ぶ者、医療器具を用意する者――看護兵たちが、あちこちを走り回っていた。
そんな光景を眺めながら、寅二郎はどこぞへと歩いていく。
「トラジロウ!」
そんな寅二郎にリラが声をかけ、走り寄ってきた。
「よう。大変そうだな」と寅二郎は眉を寄せ、声を上げる。
「だけど、ユキナもみんなも頑張ってる。
そうやって“みんな”でこの世界を生きていきたいから」
リラは俯き、拳を握った。
負傷者を運ぶ声が響き、看護兵たちが慌ただしく行き交う。
「だから! 私はいっしょに行けない!」リラは叫んだ。
寅二郎を見つめるリラの体が震え、その瞳から涙が零れた。
「行くんでしょ? トラジロウ」リラが呟き、
「ああ、そうだな」寅二郎が答える。
「もう私は一人で立つ。立たなきゃいけないの。
だって“あなたたち”の背中を見続けてきたから」
リラは涙を流しながら寅二郎の目を見ている。
「“あなたたち”の隣に立ちたい!
だから私は、ここで! ひとりで! 立つの!
だから、……私は一緒には行けません!」
溢れだすリラの涙を見つめ、ふいに寅二郎は背を向けた。
「待ってる。リラが“隣に立つ日”を、な」
そう言って、寅二郎は後ろ手を振って歩き出した。
リラの視線を背に受けながら、寅二郎は城門を抜けた。
そこにはシドが待っていた。
「いいのか?シド」寅二郎は歩き続ける。
「何がだ?」シドも歩き出す。
「俺は“お尋ね者”らしいぞ?」
「違うな。俺たちは“冒険者”だ」
「はは、そうだな」
「それに俺の居場所はもう、決まってる」
そうしてシドが寅二郎と並び歩く。
「ここが俺の“立つ場所”だ。俺の“居場所”だ」
シドが微笑む。
その笑顔を見て、寅二郎も微笑み、頭の後ろで腕を組んだ。
「なら、行こうか。“相棒”」
「ああ、行こうか。次なる冒険へ――」
そして二人は歩き出す。
“魔王”も“皇帝”もいない世界へと。
世界の秘密を抱え、命を狙われるかもしれない。
“英雄への道”も“世界を救った実感”も無い。
その上、何の当ても無い旅へ、一歩踏み出した寅二郎が最後にぼやく。
「異世界はつらいぜ」
アンナへ向けた歓声が未だ響くレギオンブルクの空、
晴れ渡る青い空に白い雲が流れていく。
しかし、その空の向こうでは黒い雲が――。
「なんでだよ!」
異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~
第一部マナ秩序崩壊編―完―
第一部「マナ秩序崩壊編」、これにて完結です!
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
寅二郎たちの旅は、まだまだ続きます。
第二部も投稿予定ですので、引き続きよろしくお願いします!
切りもいいので、新作「妖刀オロチ~最後の継承者~」を投稿しました。
ちょっとダークな和風ファンタジーです。
全三話。よろしければそちらもよろしくお願いします。




