余談:必殺技はつらいよ
正のマナに満たされた異世界、パナデイア大陸。
勇者として召喚された冴木寅二郎は、
自由奔放に振る舞った結果、王国を追放されてしまった。
それでもめげない彼は、仲間のシドと共に魔王討伐を目指していた。
そんなある日のこと。
「…………!」
寅二郎と共にスライムを討伐し、
その報告を王国へ済ませたシドは、
ギルド内に設置された訓練場で寅二郎の姿を見つけた。
寅二郎は手に入れたばかりのバスタードソードを構え、
目の前の案山子に集中している。
その背中にシドが声をかけた。
「精が出るな。寅二郎」
寅二郎はふっと息を吐き、振り返った。
「ああ、シドか」
そう言うとすぐにまた案山子へと向き直った。
「スライム討伐。
成功したのはいいが、……あれじゃ駄目だ」
寅二郎の気合の入った背中。
その背中、その言葉にシドは関心した。
「初討伐を無傷で成功。
とてもいい内容だったと思うが?」
「いや、足りないんだよ」
「足りない?」
「ああ、あれが足りないんだ」
そう言い寅二郎は深く息を吸う。
そしてバスタードソードを振り上げると、
「超・スーパー・ウルトラ・ミラクル・グレート・サンダー・オンデマンド・ギャラクティカ・マニュアル・サレンダー・アカウント・パラダイス・ネットワーク・ネオ・ローリング・パシフィックオーシャン・オール・ファースト・セカンド・サード・スラッシュ!」
そう一気に叫ぶと剣を振り下ろした。
バス!
肩口を打たれた案山子が揺れた。
シドは感心していた表情から徐々に険しい顔となり、
「なんだ? それは……」
ため息とともにそう呟いた。
寅二郎は振り返る。
「必殺技だよ! 必殺技!」
楽しそうにそう言ってのける。
「この世界じゃ魔法とかあるだろ!
ああいうめちゃ長い詠唱とか、かっこいいじゃねぇか!」
「寅二郎。お前……」
「ああいう“必殺技”! 憧れるよな」
子供のような笑顔の寅二郎。
シドは、苦虫を嚙み潰したような表情だ。
「気持ちは分からんでもないが……」
そう言いながらシドは寅二郎へと歩み寄る。
「魔法の詠唱はな。
祈願、定義、目的、そしてトリガーとなるワード。
その四段階をイメージし、言葉とすることで、
魔法の威力を定着させているんだ。
剣技などの技名も同じ。
意味があって、その名前になってるんだよ」
そして寅二郎の肩に手を乗せると、
「お前のそれ、全く意味無いぞ」
と盛大にため息をついた。
寅二郎はその場に崩れ落ちた。
「そ、そんなぁ……」
そんな二人の頭上で、カラスが一羽。
カァー、カァー。
夕闇の空に、哀愁漂う鳴き声が響いていた。




