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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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余談:必殺技はつらいよ

 正のマナに満たされた異世界、パナデイア大陸。

 勇者として召喚された冴木寅二郎は、

 自由奔放に振る舞った結果、王国を追放されてしまった。

 それでもめげない彼は、仲間のシドと共に魔王討伐を目指していた。

 そんなある日のこと。


「…………!」


 寅二郎と共にスライムを討伐し、

 その報告を王国へ済ませたシドは、

 ギルド内に設置された訓練場で寅二郎の姿を見つけた。


 寅二郎は手に入れたばかりのバスタードソードを構え、

 目の前の案山子に集中している。


 その背中にシドが声をかけた。


「精が出るな。寅二郎」


 寅二郎はふっと息を吐き、振り返った。


「ああ、シドか」


 そう言うとすぐにまた案山子へと向き直った。


「スライム討伐。

 成功したのはいいが、……あれじゃ駄目だ」


 寅二郎の気合の入った背中。

 その背中、その言葉にシドは関心した。


「初討伐を無傷で成功。

 とてもいい内容だったと思うが?」


「いや、足りないんだよ」


「足りない?」


「ああ、あれが足りないんだ」


 そう言い寅二郎は深く息を吸う。


 そしてバスタードソードを振り上げると、


「超・スーパー・ウルトラ・ミラクル・グレート・サンダー・オンデマンド・ギャラクティカ・マニュアル・サレンダー・アカウント・パラダイス・ネットワーク・ネオ・ローリング・パシフィックオーシャン・オール・ファースト・セカンド・サード・スラッシュ!」


 そう一気に叫ぶと剣を振り下ろした。


バス!


 肩口を打たれた案山子が揺れた。


 シドは感心していた表情から徐々に険しい顔となり、


「なんだ? それは……」


 ため息とともにそう呟いた。


 寅二郎は振り返る。


「必殺技だよ! 必殺技!」


 楽しそうにそう言ってのける。


「この世界じゃ魔法とかあるだろ!

 ああいうめちゃ長い詠唱とか、かっこいいじゃねぇか!」


「寅二郎。お前……」


「ああいう“必殺技”! 憧れるよな」


 子供のような笑顔の寅二郎。

 シドは、苦虫を嚙み潰したような表情だ。


「気持ちは分からんでもないが……」


 そう言いながらシドは寅二郎へと歩み寄る。


「魔法の詠唱はな。

 祈願、定義、目的、そしてトリガーとなるワード。

 その四段階をイメージし、言葉とすることで、

 魔法の威力を定着させているんだ。

 剣技などの技名も同じ。

 意味があって、その名前になってるんだよ」


 そして寅二郎の肩に手を乗せると、


「お前のそれ、全く意味無いぞ」


 と盛大にため息をついた。


 寅二郎はその場に崩れ落ちた。


「そ、そんなぁ……」


 そんな二人の頭上で、カラスが一羽。


カァー、カァー。


 夕闇の空に、哀愁漂う鳴き声が響いていた。

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