第十一話 異世界はつらいよ③
「トラジロウ……」
救護室を出た寅二郎にそう声をかける者があった。
それは一人追いかけてきた、ヤスコだった。
寅二郎が振り返ると、俯いたままヤスコが言った。
「“魔王軍残党による暗殺”、
アンナにとても重い物を背負わせてしまった。
それに、トラジロウ。――あなたにも」
寅二郎は、分からない、という風に首を傾げる。
「“皇帝陛下の死の真相”、それを知りたがる者たち。
それらに狙われ続けるわ。あなたはずっと――」
ヤスコは顔を上げ、寅二郎に目を合わせた。
その目をまっすぐ見返し、寅二郎が言った。
「そんなことか。
俺は“ただの放浪者”、叩かれたって煙も出ねぇよ」
寅二郎はそう言って、笑った。
ヤスコは肩を震わせ、言葉を続ける。
「ずるい女ね、私は……。
あなたならそう言ってくれると分かってた」
「さすがは《光輪の乙女たち》の“黒”? だっけか」
「ええ、私は真っ黒、なのよ」
「はは、いいじゃねえか、黒」
「“ミステリアスもっこり”って感じか?」
「!?」
「いい女だよ。お前も」
寅二郎は自分の頭を掻きながら、
「お前も背負ったんだろ? その“重い物”ってのを――
だから、いいんだよ。お前も胸張って立ってりゃな」
そう言って笑顔を見せた。
ヤスコの目から涙が溢れた。
“ステータス0”、“セクハラ勇者”などと追放され、
それでも魔王を倒し、世界を救う。そんな男が――。
(私を、ひとりの“女”として認めてくれた)
だからヤスコは胸を張った。目の前の男に見せつけるように。
「おお、ナイスもっこり」
そう言って歩いていく寅二郎の背中が見えなくなっても、
溢れる涙を拭くこともせず、ヤスコは立ち続けるのだった。




