第十一話 異世界はつらいよ①
《バベルの塔》、頂上での決戦の幕は降り、
ようやく寅二郎も立ち上がった。
「皇帝さんよ、あんたも結局“人”だったってことだよ」
そう呟き、右手に持った“ニューナンブ”を見つめた。
「あ~あ。こいつも弾を撃ち尽くしたし、
本当に“お守り”行きだなぁおい――」
そう言って左脇のホルスターに“ニューナンブ”を仕舞う。
その寅二郎の背中で、
「見つけたぞ!」アリアが嬉しそうに走ってくる。
胸元に大事そうに抱えているのは、
《点火の腕》を握ったままのシドの右腕だった。
「ありがたい」リラから治癒魔法を受けているシドが振り返り、
「ちょっとシド!まだ動かないで」と、リラから叱られている。
アンナたち《暁の翼》と寅二郎一行が揃ったところで、
「これで一件落着。……だな」と寅二郎が言った。
「そう……よね」アンナはそう答えるも、
(私たちは信じた道を歩いてる。だけど……なぜだか剣が重い)
そう思い、顔を伏せる。
ガルディア帝国皇帝レギウス三世崩御――。
それは紛れもない事実。
そしてそれはこれからの帝国に混乱をもたらす。
ただ一人、沈んだ表情を浮かべるアンナ。
アンナのそんな表情を皆に見せないためだろう、ヤスコが声を上げた。
「さぁこっからはヤスコお姉さんの出番だね」
そう言って、ヤスコが頂上へと走る。
皆がそちらに目をやり、しばし。
「お待たせ」そう言って、ヤスコが何やら肩に担いで降りてきた。
「ヤスコ、その肩の荷物、何?」アンナが声をかける。
「ん?ああ、レギウス三世の遺体、だよ」
ヤスコのセリフに一同が固まる。
「まぁ、これからのことは、
《光輪の乙女たち》の“黒”。松風ヤスコにお任せあれ」
あくまで陽気に言ってのけるヤスコ。その陽気さに一同毒気を抜かれたのか、あえてそれ以上は触れようとしない。
「ああ、疲れたぜ」寅二郎がボヤキ、
「馬鹿!シドが治ったらぶん殴ってあげる」リラが叱る。
いつもの和やかな雰囲気に包まれ、麓に降りると、
「“勇者”アンナよ!何があったというのだ!」
口角泡を飛ばす、を地で行く参謀本部将軍ゴールドール。
そして、他の参謀本部将軍連中が勢ぞろいで待っていた。
「そ、それが……」口ごもるアンナに代り、
「将軍御一同! 大変です!
皇帝陛下が、レギウス三世陛下が!
《バベルの塔》で“魔族に暗殺”されました!」
「な、何だとぉ!」驚愕に震える将軍たち。
「ちょ、ちょっとヤスコ!」
前に出ようとするアンナを、ヤスコが制する。
(いいから。後で顔貸して……)
とアンナにだけ耳打ちし、「さぁ詳しくはこちらで!」とヤスコはレギウス三世の遺体を担いだまま、レギウス城へと入って行く。
「何だってんだ?ありゃぁ」
寅二郎が頭の後ろで手を組み、のんきな声を上げる。
しかし、アリア、シド、察しの良い二人はぐっと歯を噛みしめている。
そして、ヤスコに耳打ちされたアンナも、
今はただ、ヤスコの背を目で追い続けるのだった。




