第十話 決戦はつらいよ⑦
《発電所》からの電力供給を受け、照らし出される《バベルの塔》。
朽ち落ちてほぼ壊滅した櫓。その上から、月の光が覗き込むように注いでいた。
“ゴーレム部隊”からの掃射を受け、全身を赤く染める寅二郎。
そこへ走り出そうとするユキナに手を向け、叫ぶ。
「来るな! ユキナ!」寅二郎が叫ぶ。その体から、また血が噴き出す。
「危ない!」アリアもユキナを引き留めるように肩を掴む。
「でも……」ユキナがアリアを振り返る、その頬を、
ビィ!
“ゴーレム部隊”からの光線が掠めていった。
「!?」身を硬直させるユキナに、
「ユキナ! お前は回復の要。
アンナたちをフォローしてやってくれ!」
寅二郎がユキナに叫び、アリアに顔を向ける。
「アリア! 頼んだぜ!」
そんな寅二郎の叫びに、アリアは歯を食いしばりながら頷いた。
そして寅二郎はアンナへと顔を向けた。
「こっからは、持久戦だ! アンナ行けるな?」
「ええ! 行くわよ!」アンナは剣に光を纏わせ、走り出す。
寅二郎、アンナ、ヤスコがレギウスに斬りかかる、が。
「持久戦?」レギウスは手をかざす。
ビビビィ!光線が飛び交い、寅二郎たちが距離を取る。
「まさか、エネルギー切れ等を期待しているのか?
この朕に? エネルギー切れ? あり得ん」
レギウスが言うと、地面が、いや大地が震え出した。
ゴゴゴゴゴ!
「これは……」
寅二郎は“ゴーレム部隊”のエネルギー補給を思い出していた。“ゴーレム部隊”が大地から直接エネルギーを吸い取る。以前に見た光景が、今まさに地響きとなって再現されていた。
アンナたちが身を固くする中、ヤスコが声を上げる。
「あれは何?」その声に寅二郎はじめ、皆が目を向ける。
その先では、ちらちらと明滅する光がレギウスに向けて走っている。その光の元は、周りを囲む“ゴーレム部隊”、だけでは無かった。
《バベルの塔》へ、レギオンブルクから、そして世界中から光が集まっていく。
――はるか上空からパナデイア大陸を見下ろす者がいれば、その光景を目にしたはずだ。大陸中央より少し北、レギオンブルクに向かういくつものマナの光が軌跡を描くのを。
もし、もしもそれを上から覗き込むような者がいるならば、逆さとなったパナデイア大陸という瞳から、涙が落ちるように見えたであろう――。
レギウスは両の手を天へ掲げるようにすると、言い放つ。
「朕は今、“接続”しているのだ。まさに、世界とな」
「何を!」と、アンナが叫び、光の柱と化した剣を叩きつける。
それをレギウスは右手で軽く受け流した。
そこへすかさずリルルが叫ぶ。
「《ライトニング・ボルト》!」
リルルの左手から放たれた雷光が一直線にレギウスに迫る。
「ふん」レギウスがそれを右手で払うが、
すかさずリルルは左手を握り、右手をかざす。
「《アース・スピア》!」
レギウスが雷光を払った右手。その反対側から、岩の槍が襲いかかる。
「やるな、二重詠唱か。“人”はここまで出来るのか」
そう言うレギウスが岩の槍を睨むと、光線がそれを砕く。
「クハ!」リルルが大きく息を吐き、その場にへたり込む。
そんな乱戦の最中、アリアは目を見張る。
レギウスの真後ろに陽炎のようになってヤスコが立っていた。
音も無く、短剣を突き出すヤスコ。
(もらった!)
しかし、レギウスが言う。
「ほほう、この瞬間まで殺気を消すことが出来るとは。
素晴らしいな、――“人”の可能性は。……しかし」
次の瞬間、四方から光線がヤスコへ襲いかかる。
短剣を弾き、腕を、肩を貫き――ヤスコの体を吹き飛ばした。
「だが、無駄だ。
朕はすでに接続した。“世界”とな」
吹き飛ばされたヤスコは、地面に転がりながらも立ち上がる。
右手を押さえ、次々と飛来する光線を避けて走り続けた。
そんなヤスコの無事を目で追いながらアンナが叫ぶ。
「まさか、世界中の“ゴーレム”たちと一つになったの!?」
レギウスは一つ頷く。
「そうだ。朕は“世界中”のゴーレムたち。
そのエネルギー、位置把握能力、それらを司る頭脳、
全てと一つとなったのだ!」
そのレギウスの言葉にアンナたちは蒼白の表情を浮かべ、
「この、化け物がぁ!」それでもアンナが斬りかかる。
「今の朕なら、このようなことも出来る」
レギウスが言うと、アンナが剣を振りかぶった瞬間に、
上から雷が、下から岩の槍が襲いかかった。
リルルの見せた二重詠唱をその場で披露してみせたのだ。
「きゃぁ!」アンナは必死で雷から身を躱し、岩の槍を剣で砕いた。
「お前たちは“世界”から見られていると思うことだな。
もはや、逃げ場すら。――無い」
レギウスのセリフに、
アンナたちは背中に氷の柱でも刺されたように身を固くする他なかった。
しかし、
「気に食わんな」
レギウスがそう言い、指の先に雷の球を形作っていく。
そして、
「何故その目はまだ死んでいない?」レギウスはそう言い、指先を向けた。
剣を握る手も震え、立っていることもやっとの男。
寅二郎の決意が燃える瞳へ向けて――。
「まだ死んでねぇからだ」寅二郎が言う。震える両手で剣を向け、
「まだ俺たちの、“人”の“希望”は死んでねぇ!」
寅二郎の叫びに、アンナたちの体が熱くなる。
しかし、
「くだらん。“希望”など、――不要だ!」
レギウスの指先から雷の弾が放たれる瞬間、
「「トラジロウ!」」
アンナたちの、そして“あいつら”の叫びで――。
レギウスの指先の雷の弾が、あらぬ方向へ飛んでいく!
「来たぜ!“希望”が!」
寅二郎のセリフと共に、
一人は寅二郎の隣に立って《点火の腕》を掲げ、
一人は寅二郎の後ろに立って治癒魔法の光を降ろす――。
シドとリラが決戦の場にたどり着いたのだった。




