第十話 決戦はつらいよ⑤
“元”魔王軍の三魔将との決着をつけるべく、ベルゼの影へと走るアンナたち。
その身にはユキナの防御魔法、《サンクチュアリ・シールド》の光。
「はあああぁ!」
アンナは剣に白い光を纏わせ、ベルゼの影に切りかかる。
ベルゼの影は体を捻って躱し、バックステップ。
そして広げた両手の上には4つの黒い火球が出現。
「させない!」
それを見たヤスコが炸裂弾を投げつける。
ゴババン!
二つの火球に命中し、その場で爆発。
しかし、残りの火球がアリアたちに迫る。
「《グレート・ウォール》!」
アリアの身構えていた盾が蒼く光る。
――グレート・ウォール。自己強化の効果を装備品にまで広げる、上位版の魔法だ。その蒼い光を纏った盾が、黒い火球を弾き飛ばす。
それでもアンナとヤスコ、二人の斬撃を躱しながら、
ベルゼの影は、黒い火球を放ち続ける。
「ククク、無駄だぁ!もはや、そやつは負のマナそのもの。
“ゆらぎ”ある限り、止めることなど誰にも出来んわ!クハハハ!」
口から血をまき散らしながら、ハルモニアが笑い出す。
それに呼応するように、ベルゼの影はその瘴気を濃くする。
ビキビキビキィ!
ベルゼの影、その足元がひび割れ、
ズズズズズ!
《バベルの塔》を囲む櫓、その木材部分が黒く変色。腐り落ち崩れ始める。瘴気をまき散らし暴風のように荒れ狂うベルゼの影。しかし、
「《アース・スピア》!」リルルが叫ぶと、
ズガガガガ!
地中から槍のように尖った、いくつもの岩がベルゼの影を追う。
「無駄だと言ったろう!
その程度の速度ではベルゼの影は捕らえられん!」
ハルモニアはそう叫ぶ、
だが、その目には、アンナへと向かう光の筋が映っていた。
「何だ?」ハルモニアが顔を巡らせると、
アリアから、リルルから、ユキナから、それぞれの光がアンナへ向かう。
ドン!
ベルゼの影が岩に背を打ち付けた。
「何だと?」と、そこで初めてハルモニアは気づいた。リルルの魔法は、ベルゼの影を直接狙ったものではなかった。逃げ場を塞ぎ、ハルモニアもろとも囲い込むために放たれたのだ。
「今だ!アンナ!」ヤスコが叫び、アンナの前に屈みこむ。アンナへの攻撃を警戒し、その身からも光が繋がる――アンナの元へと。
「うん!任せて!」
《暁の翼》の仲間たちから集まった光を束ね、アンナが剣を振りかぶる。
「あれは……」ハルモニアの目に“ソレ”が映る。
アンナの剣先、《暁の翼》たちの上方に浮かぶ十字架。
聖属性最上位魔法の光が――。
ガアアアアァ!
ベルゼの影が黒い火球を放とうとした、その真上から――。
「《グランドクロス》!」
光り輝く巨大な十字架がベルゼの影、そしてハルモニアに降り注ぐ。
ドゴーーーーン!
聖なる十字架に押しつぶされ、煙となって消えていくベルゼの影。
その下敷きとなったハルモニアも足元から煙を上らせていく。
「クハハハハ! これほどの“ゆらぎ”!
これが“人”の力か。……美しい……」
そう言い残し、ハルモニアは煙となって消えた。
その顔は満足げな微笑みに見えた――。
「結局――」アンナは肩で息をしながらも、
「あなたは揺らぎを生み、
ただ世界を混乱させるだけ。
そんな歪みから――
私たちは、皆を守り抜く!」
そう叫んだ。
そして、暴風のようだった三魔将の影は《バベルの塔》から去った。
「あとは……」と、アンナは剣先を向けた。
「あなただけよ!皇帝、レギウス三世!」
《バベルの塔》の中央に立つ皇帝レギウス三世――新世界秩序そのものへ。




