第十話 決戦はつらいよ④
白い光を立ち上らせる寅二郎とレギウス三世。
両者が睨みあい、《バベルの塔》に風が吹き荒れる中、
「アンナ!」ヤスコが《調律者》ハルモニアに指を向ける。
「あいつもヤバい! あいつ、魔族だ!」そう叫んだ。
アンナたちも一斉にハルモニアを睨みつけた。
すると、ハルモニアがフードを脱いだ。
黒い瘴気を立ち上らせ、呟く。
「ほう、ここまで抑えた瘴気でも感知する者がいるとはな」
くっくと笑うと、アンナに向けて言った。
「そうだ。私は三魔将《調律者》ハルモニア。
マナ世界を調律するため。
――世界が最も美しく歪む瞬間。
それを見るために、皇帝の傍に侍っていたわけだが……」
ハルモニアが一歩前へ出る。
「事、ここに至ると私も戦わざるを得んか」
そう言って、瘴気を全身から噴き出させた。
「アンナさん!」ユキナも駆け寄り、
《暁の翼》たちがハルモニアの前に武器を構える。
ハルモニアは《暁の翼》一行を見回し、
「勇者よ。貴様、
“世界を揺らす”、その覚悟はあるか?」
そう言って、何もない空間に手を突き入れた。
ビキビキィ
空間がひび割れるような音が響く。
アンナはぐっと息を呑んだ。が、
「“覚悟”ならあります!
皇帝の創る世界を認めない。そのための“覚悟”なら!」
アンナは剣を構え、全身から白い光を立ち上らせる。
「では、見せてもらおう。――その“覚悟”を。
皇帝の創る世界の揺らぎ、それを超える最大の歪みを!」
ガフっと血を吐きながらも、ハルモニアが手を引き抜いていく。
ひび割れる音が響く中、黒い炎で形作られた“ソレ”を。
「あれは!」アリアが盾を構え、汗を滴らせる。
「これでいい……私は、世界最大の“揺らぎ”を見届けられる」
ハルモニアがそう呟き、ついに“ソレ”を完全に引き抜いた。
その影を見て、アンナは息を呑んだ。
「三魔将、ベルゼ!」アンナが叫ぶ。
ハルモニアの隣、倍する背丈の影。それは三魔将《破壊者》ベルゼの影だった。ハルモニアを越える瘴気の嵐を巻き起こし、金色の瞳がアンナを捉える。そして、
ガアアアァ!
そう叫ぶ。凄まじい風が吹き荒れ、《バベルの塔》を揺らす。
「アンナ!」寅二郎が叫ぶ。しかし、
「大丈夫!任せて!」アンナはそう叫び返した。
アンナの脳裏に、かつての光景が浮かんだ。
リ・エスティーネ王国で、召喚されたばかりの頃に急襲された時のこと。
為す術もなく、寅二郎の背中で歯噛みするしかなかった、あの時のことだ。
(もう、あの頃のままじゃない!トラジロウだけじゃない!)
そして、ベルゼに剣を向け叫ぶ。
「“私たち”だって“勇者”なんだ!」
「おう!」《暁の翼》のメンバーも叫ぶ。
“正”と“負”、“過去”と“現在”。
全てに決着をつけるべく、アンナたちは三魔将との決戦へと走り出した。




