第十話 決戦はつらいよ②
アンナたち《暁の翼》に寅二郎が合流した。偶然の再会とはいえ、アンナたちにとっては頼もしい援軍だった。そんなアンナが、寅二郎に声をかける。
「あの、トラジロウ?
いつも一緒にいた二人は、……どうしたの?」
後ろを振り返った寅二郎が、苦笑いを浮かべ、
「ああ、シドなら別件でな。ちょっと遅れる。
それにリラも、途中まで一緒だったんだが……」
そう言って、深く息を吐いた。そして、
「リラも……、
“オカン”も“オトン”が心配だったんだろ。
まぁ大丈夫だよ。――心配ない」
と、満面の笑みを浮かべた。
そんな寅二郎の様子に、アンナも安心したのか、
「じゃぁいいんだね?
行くよ、《バベルの塔》、皇帝陛下の下へ!」
そう叫び、寅二郎含め一同が、「おう!」と応えて、一斉に走り出した。
ガルディア帝国皇帝レギウス三世がいるという《バベルの塔》へと――。
一方《バベルの塔》では――。
「ふむ、経過は順調のようだな」
皇帝レギウス三世は、建設途中の《バベルの塔》の基礎部分に立っていた。
そこは、まるで闘技場のように整えられた広大な空間だった。
「ええ、基礎工事は完了しました。
ご覧ください、この足場。組まれた櫓はレギウス城を軽く越えております」
傍に侍る《諜報部》長官にして、
三魔将の一人、《調律者》ハルモニアが声を上げた。
レギウス城の裏手に広がる敷地を切り開き、建設されている《バベルの塔》。
円形の闘技場のような基礎部分を、ぐるりと櫓が囲んでいる。
《発電所》から送られた電力が、夕闇の中で《バベルの塔》を照らし出している。
そして、その明りの影から声が上がった。
「陛下、ご報告が……」
その声は《諜報部》の諜報員、フジコのものだった。
その声に二人が振り返る。
レギウス三世らは跪くフジコに向かい歩き出し、
「ほう?何事か」と、ハルモニアが声を上げた。
「どうやら、カミシロ・アンナら《光輪の乙女》たちが乱心。
反逆の意志を持って、こちらへ向かっている模様です」
「何だと……」ハルモニアは目を見開く。
しかし、レギウス三世は気にする風でもなく、
フジコの目の前まで歩を進めると、ようやく声を上げた。
「ふむ、奴らも所詮は人の子。
朕の“完成”された世界、理解に及ばなかった。か」
そう言って左手の袖を払った。
ありもしないゴミを払うように――。
「フジコ、よく知らせてくれた。
陛下、いかがいたしましょう?」
ハルモニアがレギウス三世に顔を向ける。
しかし、レギウス三世の言葉は、
「フジコ、立て」だった。
ハルモニアが眉を寄せ、フジコは立ち上がる。
《バベルの塔》に風が吹き、明かりが揺らいだ。
ドス!
フジコは、自分の腹を見た。
そこには、レギウス三世の右腕が突き刺さっていた。
腹を貫いた腕は背中まで突き抜け、その指先から赤いものが垂れていた。
「ガフ!」フジコは口からも血を吐いた。
「フジコよ。
思えば、そちのこれまでの朕に対する貢献、称賛に値する。
――“亡者の髪飾り”に始まり“歩く炉”など。
今の帝国の発展は、そちの貢献によるところが大きい」
脂汗を垂らし、レギウス三世を見つめるフジコに、
「だが――」
そう言って貫いたままのフジコを持ち上げた。
「フジコ、貴様は“完成された世界”の、その先を見ているな。――それは」
フジコの口から血が一滴、床に落ちた。
「朕の創る“完成された世界”には、――“不要”だ」
眉一つ動かさないレギウス三世の顔を眺め、
フジコは「フフっ」と一つ笑い、
「これで、あなたの言う世界とやらが“完成”ってわけね」
そう言葉を絞り出した。
フジコの頭に、様々な記憶が蘇り消えていく。
(お母さん。これで良かったんでしょ……)
最後に若き日の母の笑顔を思い浮かべる。
薄れゆく意識の中で、
「フジコ!」そんな声が聞こえる。
「何やってんだ!コラァ」そんな叫び声と共にいくつもの足音。
フジコは、すっと目を閉じた。
その時、《バベルの塔》に寅二郎たちが走り込んできた。
いよいよ、
世界の命運をかけた戦いの幕が、切って落とされようとしていた。




