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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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第十話 決戦はつらいよ②

 アンナたち《暁の翼》に寅二郎が合流した。偶然の再会とはいえ、アンナたちにとっては頼もしい援軍だった。そんなアンナが、寅二郎に声をかける。


「あの、トラジロウ?

 いつも一緒にいた二人は、……どうしたの?」


 後ろを振り返った寅二郎が、苦笑いを浮かべ、


「ああ、シドなら別件でな。ちょっと遅れる。

 それにリラも、途中まで一緒だったんだが……」


 そう言って、深く息を吐いた。そして、


「リラも……、

“オカン”も“オトン”が心配だったんだろ。

 まぁ大丈夫だよ。――心配ない」


 と、満面の笑みを浮かべた。

 そんな寅二郎の様子に、アンナも安心したのか、


「じゃぁいいんだね?

 行くよ、《バベルの塔》、皇帝陛下の下へ!」


 そう叫び、寅二郎含め一同が、「おう!」と応えて、一斉に走り出した。

 ガルディア帝国皇帝レギウス三世がいるという《バベルの塔》へと――。


一方《バベルの塔》では――。


「ふむ、経過は順調のようだな」


 皇帝レギウス三世は、建設途中の《バベルの塔》の基礎部分に立っていた。

 そこは、まるで闘技場のように整えられた広大な空間だった。


「ええ、基礎工事は完了しました。

 ご覧ください、この足場。組まれた櫓はレギウス城を軽く越えております」


 傍に侍る《諜報部》長官にして、

 三魔将の一人、《調律者》ハルモニアが声を上げた。


 レギウス城の裏手に広がる敷地を切り開き、建設されている《バベルの塔》。

 円形の闘技場のような基礎部分を、ぐるりと櫓が囲んでいる。

《発電所》から送られた電力が、夕闇の中で《バベルの塔》を照らし出している。


 そして、その明りの影から声が上がった。

「陛下、ご報告が……」

 その声は《諜報部》の諜報員、フジコのものだった。


 その声に二人が振り返る。

 レギウス三世らは跪くフジコに向かい歩き出し、

「ほう?何事か」と、ハルモニアが声を上げた。


「どうやら、カミシロ・アンナら《光輪の乙女》たちが乱心。

 反逆の意志を持って、こちらへ向かっている模様です」


「何だと……」ハルモニアは目を見開く。


 しかし、レギウス三世は気にする風でもなく、

 フジコの目の前まで歩を進めると、ようやく声を上げた。


「ふむ、奴らも所詮は人の子。

 朕の“完成”された世界、理解に及ばなかった。か」


 そう言って左手の袖を払った。

 ありもしないゴミを払うように――。


「フジコ、よく知らせてくれた。

 陛下、いかがいたしましょう?」


 ハルモニアがレギウス三世に顔を向ける。

 しかし、レギウス三世の言葉は、


「フジコ、立て」だった。


 ハルモニアが眉を寄せ、フジコは立ち上がる。


《バベルの塔》に風が吹き、明かりが揺らいだ。


ドス!


 フジコは、自分の腹を見た。

 そこには、レギウス三世の右腕が突き刺さっていた。

 腹を貫いた腕は背中まで突き抜け、その指先から赤いものが垂れていた。


「ガフ!」フジコは口からも血を吐いた。


「フジコよ。

 思えば、そちのこれまでの朕に対する貢献、称賛に値する。


――“亡者の髪飾り”に始まり“歩く炉”など。

 今の帝国の発展は、そちの貢献によるところが大きい」


 脂汗を垂らし、レギウス三世を見つめるフジコに、


「だが――」


 そう言って貫いたままのフジコを持ち上げた。


「フジコ、貴様は“完成された世界”の、その先を見ているな。――それは」


 フジコの口から血が一滴、床に落ちた。


「朕の創る“完成された世界”には、――“不要”だ」


 眉一つ動かさないレギウス三世の顔を眺め、

 フジコは「フフっ」と一つ笑い、


「これで、あなたの言う世界とやらが“完成”ってわけね」

 そう言葉を絞り出した。


 フジコの頭に、様々な記憶が蘇り消えていく。


(お母さん。これで良かったんでしょ……)


 最後に若き日の母の笑顔を思い浮かべる。

 薄れゆく意識の中で、


「フジコ!」そんな声が聞こえる。


「何やってんだ!コラァ」そんな叫び声と共にいくつもの足音。


 フジコは、すっと目を閉じた。

 その時、《バベルの塔》に寅二郎たちが走り込んできた。


いよいよ、

世界の命運をかけた戦いの幕が、切って落とされようとしていた。

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