第十話 決戦はつらいよ①
寅二郎やアンナたち《勇者PT》は、
それぞれ皇帝レギウス三世に会うため、《バベルの塔》へと走っていた。
しかし、アンナたち《暁の翼》の面々は、
《バベルの塔》目前で足止めを食らっていた。
「どうしました?《光輪の乙女たち》。
《上下水処理場》の件はどうなりました?」
レギウス城の城門付近、
参謀本部将軍ゴールドールに見つかってしまったのだ。
まさか正直に全てを話すわけにもいかず、
アンナたちは戸惑っていたが、
「大変なんです!ゴールドール将軍。実は街の中に魔族が!」
と、ヤスコが慌てた様子で声を上げた。
「何だって!?」ゴールドールに緊張が走る。
「《上下水処理場》からの帰り道、魔族の気配を感じました。
しかも、今まさに皇帝陛下が《バベルの塔》に視察にいらっしゃると」
アンナたちもその話に耳を疑い、お互いの顔を見合わせるが、
「それで私たちは、皇帝陛下の護衛を務めんと急ぎ戻りました。
今もほら、あそこにだって魔族の影が!――」
そう叫び、ヤスコが指差すと、
大通りの向こうに、陽炎のように瘴気を吹き出す魔族の姿が。
「何と!」ゴールドールが衝撃の声を上げる。
「ここに来るまでに幾つもあのような気配を感じました!
ゴールドール将軍!急いで対処を!今すぐに!」
ヤスコが急かすように、ゴールドールに迫る。
ゴールドールはじっと深く考え始めた。
“陛下の護衛”と“魔族の排除”、どちらが自分の手柄となるか――。
「分かった!我々がすぐに動こう!
あなたたちは陛下の護衛に!」
ゴールドールはそう言って笑顔を見せた。そして、
「行くぞ!“ゴーレム部隊”!」そう言ってアンナたちを見回し、
「陛下には“ゴールドールが魔族を排除。”
そう伝えるように、くれぐれも頼んだぞ!」
そう言いながら、行政区の方へ走っていった。
呆気に取られるアンナたち、しかししばらくして、
「フフ、……アハハハ!」堪えきれない、といった風でヤスコが笑い出した。
意味も分からず困惑の表情を浮かべるアンナたちに、ヤスコが言った。
「あれは、私が覚えた闇属性魔法、《デコイ》よ。
ゴールドール将軍は、
居もしない魔族の影をしばらくは追い続けるわね」
そう言って笑いすぎで流した涙を拭った。
「まさか、嘘ついたの?」アンナが眉を顰める。
「ええ。結果的にはそうなるかもね。
でも、“皇帝への道”。私が切り開いたわ。
――あとは、アンナ!あなたの仕事よ!」
ヤスコはまっすぐにアンナを見据えて言った。
アンナはしばらく自分の握りこぶしを見つめていたが、
「ええ、分かった!行こう、みんな!」そう叫んだ。
そんなアンナたちの背中に、
「あれ?どうした。こんなところで」
と、声がかかった。
アンナたちが振り返ると、それは寅二郎だった。
「トラジロウ!どうしてここに?」アンナが言い、
「俺は皇帝の野郎に用があってな」寅二郎が答える。
あまりに突然の再会に戸惑う一同だったが、
「これこそ、女神さまのお導き、かもよ?」
ヤスコが冗談めかして言い、
「そうだね!どちらにしても私たちのやることに変わりは無い!」
そうアンナは言い、一同は顔を向けた。
皇帝レギウス三世がいるという、《バベルの塔》へと――。




