第九話 覚悟はつらいよ④
シドは涙を拭い走っていた。
“ゴーレム部隊”に狙われたトングを救出するために。
《点火の腕》を握りしめ、ひたすら前を向いて走る。
そしてシドの目に、それが見えた。
《技術交流会館》から連行されるトングの姿。
手錠を掛けられ、俯きながら、引きずられるように歩かされている。
「とっとと歩け。手間を掛けさせるな!」
ウインバッハが叫び、トングの手錠を引っ張っている。
そこへシドは走り叫ぶ。
「その手を!放せ!」
そうしてシドは、ウインバッハに飛び蹴りを見舞った。
「グハ!」ウインバッハは吹っ飛び、顔から地面に突っ込んだ。
「ブハ!」すかさず顔を上げたウインバッハが叫ぶ。
「何だ!貴様は!“ゴーレム部隊”!」
その瞬間、ウインバッハの前に立ちふさがる“ゴーレム部隊”。
その“ゴーレム部隊”の口が開く。そこへ光が収束していく。
シドはトングを建物の陰に追いやると、
「こっちだ!」そう叫び、道の真ん中へと走る。
ビイィーー!
シドへ向かい光線が発射された。「くっ」何とか横跳びで第一射を避けた。
しかし、すぐさま“ゴーレム部隊”の第二射に向け、光が収束――。
シドは手に持っていた《点火の腕》を“ゴーレム部隊”に向けた。
「止まれ!」そう叫ぶ。しかし、
ビイィーー!
10体のうち、5体の光線が発射された。
「クソ!」シドは躱そうとするが、頬、肩、そして太ももを貫かれた。
「グッ」シドは呻き、地へ転がる。それでも短剣を構え立ち上がる。
「行け!“ゴーレム部隊”! そのまま殺してしまって構わん!」
ウインバッハが叫び、5体のゴーレムたちがシドを囲むように陣を広げる。
じりじりとシドへと迫るゴーレムたち。
シドの頬に血と汗が流れる。
(私はこんなところで終われない!)シドの短剣を握る手に力が籠る。
「やれ!」その声に再び光を収束させるゴーレムたち。
「うわあああぁぁ!」シドは叫び、ゴーレムたちに飛び掛かる。
ビイィーー!
シドを貫く光線。腹を、肩を、腕を貫かれ《点火の腕》まで取り落とす。
それでもゴーレムを蹴り飛ばし距離を取るシド。
着地し、短剣を構えたシドだったが、
周りをゴーレムたちに囲まれていた。
すでにゴーレムたちの口には次なる光が――。
(クソったれぇ!)堪らず目を瞑ってしまったシド。
いよいよ光が発射されるその瞬間!
「止まってぇぇ!」
目を見開いたシドに光線は降り注いでこなかった。
シドの目にはその姿が映っていた。
《点火の腕》を掲げ叫びを上げる、リラの姿が!
「リラ! なぜここに!」シドは叫んでいた。
もはや血で真っ赤に染まった自分の服のことなど忘れたかのように。
動かなくなったゴーレムたちの向こう、リラが立ち上がり叫ぶ。
「私にだってある!
シド! あなたとトラジロウを再び会わせる!
そのための“覚悟”なら!
ここに、あるの!」
リラは《点火の腕》を胸に抱え泣いていた。
シドは、「そうか……」そう呟き立ち上がった。
腰を抜かし、じりじりと後ろへ下がろうとしていたウインバッハ。
その前に立つと、
ゴン!
ウインバッハの頭に短剣の柄を叩きつけ、
「リラ、……ありがとう」シドは泣き続けるリラの頭を撫でた。
「お二人とも、ありがとうございます」
トングも手錠をされたままだったが笑顔で歩み寄る。
風だけが静かに吹く街の中、
ふう、と一息ついたシドは、
「遅れてしまったが、行こう。あいつの所へ」
そう言って、顔を向けた。
夕闇の降り始めた《バベルの塔》へ向かって――。




