第九話 覚悟はつらいよ③
《バベルの塔》に皇帝がいる!
トングのもとで情報を掴んだ寅二郎たちは、一心不乱に街を駆けていた。
「レギウス城のその向こう、あそこに《バベルの塔》がある!」
シドが指を差す、夕日に照らされるレギウス城、その奥を見つめる。
「ああ!ガツンと言ってやらないとな!」
寅二郎も目を細めながら、シドの指差す先を見ていた。
リラもそんな二人の様子に目を細めている。
(良かった。二人ともいつも通りに……)
しかし、行政区の交差点を渡ろうとしたその時、
寅二郎たちの耳に、物々しい駆け足の音が聞こえてきた。
「あれは!?」シドの顔が一気に蒼白になる。
見ると、それは“ゴーレム部隊”。
参謀本部将軍ウインバッハを先頭に、
ゴーレムたちがこちらへ走って来ていた。
寅二郎たちも立ち止まり、身構える。
しかし、“ゴーレム部隊”は角を曲がり別の方へ走っていった。
「何だよ。俺たちが目的じゃないみたいだな」
寅二郎はそう言って、深く息を吐いた。
しかし、シドの耳はその声を拾っていた。
「くそ。何で俺様がわざわざドワーフ娘の拘束なぞ……」
シドはウインバッハの呟きを聞き、汗が噴き出していた。
(あいつら、トングの所へ行くつもりだ……)
シドは眩暈を覚え、
(言うべきか。トラジロウにこのことを……)
拳を強く握り、立ち竦む。そんなシドに、
「どうしたの?シド」とリラが声をかけた。その声はか細く震えていた。
そんなリラの声に、シドはようやくといった様子で振り返る。
リラの心配そうな顔に微笑むと、寅二郎へと顔を向けた。
「あいつら、トングの所へ行くつもりだ」シドはそう言った。
「何だと!」寅二郎が叫ぶ。
そして“ゴーレム部隊”の後を追おうと身構えた。
そこへ。
ドン!
シドは寅二郎に体当たりをしていた。
そして吹き飛ぶ寅二郎は「何しやがる! シド!」そう叫んだ。
「お前は先に行け!トラジロウ!」
シドは輝く球体を掲げ、そう叫んだ。
「それ! お前!」寅二郎が腰に手をやる。
しかし、そこにあるはずの“アレ”が無かった。
寅二郎が“希望”と呼んだ、“ゴーレム部隊”への対策機械。
《点火の腕》が寅二郎の手からシドへと移っていた。
「俺の“覚悟”は見たんだろう?
だったら今度こそお前の“覚悟”を見せてくれ!」
夕日を受け、文字列が光る《点火の腕》。それを掲げシドは寅二郎へ叫ぶ。
「この野郎」寅二郎は立ち上がる。
「本当に。……お前は気に食わねぇ」寅二郎は尻の埃を払う。
立ち上がった寅二郎はシドを睨み、叫んだ。
「てめえはもう一度ぶん殴る!」
そして、寅二郎は走り出した!シドとは逆の方。《バベルの塔》へ向かって!
「だから絶対追いつけよ!」そう叫び全力で走っていく。
「待ってるからな!」そう言い残し、寅二郎の背中は小さくなっていった。
もはやシドは前が見えなくなっていた。溢れる涙で。
そして《点火の腕》を胸に抱え、体を震わせると、
「ああ、必ず行く。今度こそ、お前の“隣り”にな」
そう呟き、シドは走り出した。トングのもとへと。
寅二郎とシド。
《バベルの塔》と“トング”へと二人は真逆の道を走る。
しかし二人の目は同じ先。“希望”に向かって走るのだった。




