第九話 覚悟はつらいよ②
重苦しい空気のまま辿り着いた《技術交流会館》。寅二郎たちは何も言わず中へと入る。そして寅二郎は受付にトングの居場所を尋ねた。
そこへやって来たのは、《技術交流会館》で帝国側の代表と呼ばれている男だった。頬がこけ、胃でも悪くしたのか腹を擦りながら寅二郎たちの前に立った。
「私はトング君の秘書でも何でもないのに。
何でこう何度も、何度も――」 そうぼやきながら、
寅二郎たちをトングのいる部屋へと案内した。
そうして、三人はトングのいる部屋へと入った。音楽室のような防音設備の備えられた部屋。女ドワーフのトングはその身を縮こまらせながら座っていたが、
「お帰りなさい!皆さん」トングは笑顔でそう言った。
「よう!元気そうじゃねぇか」寅二郎の顔も綻ぶ。
「ええ!皆さんが顔を見せてくれたということは、
出来たんですよね? 帝国への対抗策が!」
トングは立ち上がり、寅二郎のもとへ駆け寄ってきた。
「ああ!そうだよ。
これが“ゴーレム部隊”への対策機械。
――《点火の腕》だ!」
寅二郎は嬉しそうに、そう言うと、
腰につけていた《点火の腕》をトングに見せつけた。
トングはそれを受け取り、あれこれ眺める。
「おお、この文字列でああして、こうして……」
ぶつぶつ呟きながら球を回転させ、光の浮かぶ表面を見つめている。
「こいつがあればゴーレムを止められる!
イェルクの最高傑作なんだ!」
寅二郎は我がことのように胸を張り、声を張り上げる。
そんな二人のやり取りにシドやリラもようやく微笑み、
「お前の手柄じゃないだろ……」シドが呟き、リラが苦笑する。
トングが《点火の腕》を寅二郎へ返し、
寅二郎がそれを腰に結びつけていると、
「そういえば、皆さんに渡す物があるんです」とトングが言った。
「渡す物?」三人が首を捻り、寅二郎が、
「まさか、もっこりチケット?」
そう言ってシドに頭を叩かれている間に、
「これです」トングは一枚の紙をシドに渡した。
シドがそれを読むと、
「これは!“皇帝陛下視察日程表”と書いてあるぞ!」
と声を上げ、寅二郎に渡すと、
「おいおい!これ、今日のことだろ?
“バベルの塔視察”!そう書いてある!」
そう寅二郎も声を上げた。
「赤髪の女の人が、
“もしトラジロウって人がここに来たら”
渡しておいて欲しい。そう言って」
(赤髪の女!フジコか!)
三人はすぐにフジコの顔を思い浮かべた。
(どういうつもりだ? もしや……罠か?)シドは困惑していた。
しかしシドの困惑など笑い飛ばす勢いで寅二郎は、
「これって、“デートのお誘い”だよな!」そう叫んだ。
(それは絶対に無い)皆の心の声が一つになるが、
「よし!チャンスは逃すな!
行くぞ!――シド!リラ!」
と、寅二郎が二人へと顔を向けた。
その寅二郎の笑顔に、シドは何も言えなくなっていた。
体が震え出すのを止めようと必死になっていた。
それでも涙ぐむリラがシドの肩を叩き、「行こうよ」そう呟くと、
「ああ!行くさ!」
シドも満面の笑みで応えた。そして三人は走り出す。
希望のこもった笑顔で、《バベルの塔》へと。
――しかし、そのすぐ先で、
再び三人が“覚悟”を試されることになるとは知る由も無かった。




