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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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第九話 覚悟はつらいよ①

“何を犠牲にしても”、皇帝の前に立つ――。


 その決意を寅二郎に問い詰めたシドだったが、

 その夜、寅二郎は帰ってこなかった。


 それでも次の日の朝、国主ミレイアに用立ててもらった馬車の前でシドはリラと二人、寅二郎が来るのを待っていた。


「シド、顔が……」リラがシドに声をかける。


 シドの顔は寅二郎に殴られたまま放置され、腫れあがっていた。


「いいんだ、このままで。これは私の“覚悟”の証だ」

 シドはそう言って、苦笑いを浮かべた。


「シド……」リラは呟き、そっとシドの頬を撫でる。


「!?」すると、リラの手が輝き、シドの顔の腫れが引いていく。

 リラはシドに治癒魔法をかけたようだった。


「シドが顔を腫らしたままじゃ、

 トラジロウだって気持ちのいいものじゃないよ」


 そう言ってリラは、泣き笑いの表情を浮かべた。


「そうか、そうかもな。駄目だな私は。どうにも不器用で……」


 シドはそうリラに笑いかけた。その背中に、「よう」と声がかかった。

 二人が振り返ると、それは寅二郎だった。


 寅二郎の眉間には深いしわが寄り、シドを睨みつけていた。


 しかし、


「“何を犠牲にしても”、そんなのは納得いかねぇ。

 だが、お前の“覚悟”は分かった」そう言った。


 そして、


「皇帝の描く世界も納得いかねぇ。

 だから、――行くぞ」そう言って馬車に乗り込んだ。


「トラジロウ……」リラが呟き、シドと共に乗り込んだ。そうして、馬車は帝国へと走り出した。しかし、その車内には重い空気が漂ったままだった。「いよいよ帝国だね」リラは事あるごとに、宿につく時、馬車を乗り降りする時、何度も二人に話しかけた。しかし、「そうだな」「ああ」と、二人からはそんな言葉しか返ってこなかった。


 結局、レギオンブルクの検問所を抜けるまで、空気は重いまま。


 そして、検問所を抜けた先、寅二郎はある場所を睨みつけていた。


 何もない地面。


 (あそこは……)リラやシドが体を固くする。


 そう、そこは冒険者が“ゴーレム部隊”に捕らえられた場所。寅二郎に隠された場面。シドが殴られてでも伏せた“帝国の力”。しかし、


 今は何もない地面。だった。


「クソ!」寅二郎はやるせない表情で地面を蹴る。


 そして三人は歩き出す。

 トングのいる《技術交流会館》へ。


そしてそこで三人は、トングと再会する。

その瞬間、張り詰めていた空気があっけなく崩れ去り、

物語は一気に走り出すのだった。


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