第八話 勇者PTは立ち上がる⑤
参謀本部将軍シルバージルは、
“ゴーレム部隊”を引き連れて歩いてきた。
「女の子が浄水に落ち流されたと聞いた。ご両親はどちらに?」
そう言いながら、アンナたちへと歩き出す。
「ああ、シルバージル将軍!」
泣きながら駆け寄る両親に、視線を合わせ、
「娘さんは“帝国国民証”を持っていたんだね?」
そう言った。
両親が何度も首を縦に振るのを確認し、
「“ゴーレム部隊”!捜索を開始しろ!」そう叫んだ。
次の瞬間、“ゴーレム部隊”が首を巡らせ歩き出した。
「よし、後を追うぞ」
そう言ってシルバージルも歩き出す。
「私たちも行こう」アンナたちもシルバージルに駆け寄る。
そうして一行は《国立上下水処理場》の裏手に出た。
裏手は奥に行政区が見える野原となっていた。
「どうやら見つけたようだ」
シルバージルが、ゴーレムたちの指さす先を見つめる。
ただの地面だった。
しかし、ゴーレムたちは確実にそこを指差していた。
「分かったよ!」リルルが叫び、走り出し、
「邪魔だよ!どいて!」そう叫び、手をかざす。
ボゴン!そんな音を立てて地面がめくれ上がる!
「うわぁ!」職員たちの叫びと共に、水道管が露出した。
「あの管の先ね!」アンナが剣を手に走り出す。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて職員たちも走り出し、
「バルブを閉めれば、あそこへ行ける階段があるんです!」
そう言って二手に分かれた。
「では、私がついていこう」
シルバージルはそう言って、職員と共に水道管へと入って行った。
「大丈夫ですよね」
そう言うユキナは、固く握った手を震わせている。
両親は互いを抱き合い一心に入り口を見つめ、
アンナたちも何も言えず、ただ立っていた。
そうして、シルバージルは戻ってきた。
女の子を抱きかかえて。
物言わぬ冷たくなった女の子を。
「!?」
父親が女の子を抱き、その場に崩れ落ちる。
母親も、二人を抱くように屈みこみ、泣いている。
日の傾き始めた野原に、冷たい風が吹いた。
《暁の翼》の面々は、何も言えず立っていたが、
「もう駄目だ」とアンナは呟いた。
そして、
「ごめん。みんな」そう言って、拳を震わせている。
アンナへと振り返る面々に、
「皇帝陛下の描く世界。これが“代償”の理想世界なら」
「――私はこれを許すわけには行かない!」
そう叫んだ。そして、
「そうだな」アリアも、
「そうよね」ヤスコも、
「そうだよ」リルルも、
「そうです」ユキナも、
《暁の翼》、全員の瞳に決意の光が宿る。
そんなアンナたち《暁の翼》の背中に声をかける者がいた。
それは、シルバージルだった。
「君たちに渡さなければいけないものがある」
シルバージルはそう言って、アンナに紙を一枚渡した。
「?」アンナは受取り、目を通すと、
「“皇帝陛下視察日程表”!」
そう叫び、内容に目を見開いた。
「しかも、今。まさに今、“バベルの塔”視察。
“諜報部長官のみの経過報告会”、こんなことまで!」
アンナはシルバージルに目を向ける。
シルバージルはそっと目を落とし、
「ある女性に、『君たち勇者PTに渡しておいて欲しい』
そう言われてね。――正直、迷っていた」
そう言った。そして、
「しかし、私も限界のようだ。
私にも、妻や娘が、いるので。……ね」
そう言ってアンナを見つめ返した。
「ありがとう!
みんな!行こう! 今すぐに!」
そう言ってアンナたちは走り出した。
そんなアンナたちの背中を見ながら、
「これで、よかったんですよね」 そう呟き、
「“あなた”がいなくなってから、陛下には誰も何も言えなかった。
でも、“あなた”なら、きっとこうしていましたよね。――レオン将軍」
副長として、レオン大将軍の背中、
その偉大な背中を見続けたシルバージルは、そっと目を閉じるのだった。




