第八話 勇者PTは立ち上がる①
帝国の威光を各国に知らしめる“講習会”。アンナたち《暁の翼》も毎日のようにレギオンブルクの各施設を巡っていた。《帝国国立音楽院》に始まり、芸術文化、流通、治安機構まで幅広い分野を目にしてきた。
「どこも先進技術の塊だな」
要人たちの後ろを歩きながら、アリアがため息をつく。
「だけど、どこも効率効率。そんな印象を受けちゃうよね」
後ろのゴールドール将軍に聞こえぬよう、ヤスコは声をひそめる。
「正直、息苦しいんだよねぇ」リルルは背伸びをし、
「向いているものしか選べないのは悲しいですね」
ユキナはすっと目を閉じる。
人々のざわめき、馬車の走り抜ける音。
そんなレギオンブルクの生活の音が漏れ聞こえ、
背中で仲間の声を聞きながら、アンナも一人考える。
(人口把握、適性検査、効率重視。
社会の在り方の一つとは理解できる。
帝王学をかじり始めた私には、悪いことだけだとは思えない……)
思い悩むアンナの向こう、ゴールドールが声を上げる。
「それでは皆様、いよいよ“講習会”も大詰め。
これからは帝国のインフラ施設をご紹介いたします」
その声に、
「インフラ?」「何だそれ?」首を傾げる要人たち。
「インフラとは、インフラストラクチャー。
“下部構造”を意味します。電気・水道・ガス。
これらの力を、街中に供給するのです!」
「電気?水道?ガス?」
なおも首を傾げる要人たちの様子に、
アンナたちは苦笑を漏らす。
「私たちには常識でも、この世界じゃまだピンと来ないよね」
ヤスコが言う。そしてアリアは眉を顰める。
「つまり皇帝は我らの世界を目指すということか?」
「せっかくのファンタジー世界なのに……」
ユキナは、少し残念そうだ。
「でも、便利になっていいことなんじゃない?」
リルルは意外と好意的だ。
(便利、効率、いいことなんだけど……)
アンナの悩みを具現化するように、
オオオオォォーーー。
何やら不穏な音が聞こえてくる。
「それでは、本日は電気の力、《国立発電所》をご見学いただきます」
ゴールドールが声を上げ、ソレが姿を現す。
入り口に《国立発電所》と掲げられた建物。
巨大なコンテナの様な外観、先ほどの音は中から響いてきていた。
「どうやって発電しているのでしょうね」
ヤスコのセリフで皆は中へと足を踏み入れる。
そして、内部での驚愕の光景に皆、言葉を無くしていた。
「これは……」アリアが目を見開く。
不穏な音が響く中、ゴールドールが声を張り上げる。
「この発電量により、帝都全域の夜間照明、
上下水処理、工業生産、研究開発、
さらには《バベルの塔》建設と、すべてが滞りなく稼働しております」
アンナたちが入ったのは一階部分。
広い空間は底が抜けており、廊下が外周を囲むのみ。
正面には張り出した金属製の橋のようなものが見える。
その橋の先、中央部分には稲光の走る巨大な雷球が浮かんでいる。
廊下から見える地階部分には、
無数のゴーレムが、等間隔で立ち並んでいる。
胸部に刻まれた魔法陣が明滅し、
そのかざされた手から、雷の塊に光が繋がれていた。
オオオオォォーーー――。
低く、腹の底に響く振動。
床を伝い、骨を震わせるほどの鼓動。
アンナは、思わず息を呑んだ。
(……街を照らすだけにしては、あまりにも――)
アンナたち《暁の翼》だけでなく、
要人たちも声を上げることなく帰路へつく。
(今も耳に残るあの音、それに振動。
アレにもたらされた生活、私はどう感じればいいの……)
アンナは、“利便性”の代償がとても大きなものに思えてならなかった。




