【幕間】フジコは裏から世界を見る③
レギウス城内、《諜報部長官室》。
休養中だったはずのフジコは、諜報部長官であり、“元”魔王軍三魔将の一人、《調律者》ハルモニアに呼び出しを受けていた。
雑多な書類の折り重なる机の前で、フジコは直立不動で立っていた。
「やぁ、休養中のところ済まないね、フジコ。
急な呼び出し、心当たりはあるかね?」
机の向こう、ハルモニアはフードを被ったまま、フジコに問うた。
「いえ、皆目見当もつきません」
直立不動の姿勢を崩さず、フジコが答えた。
その様を見て、くっくとハルモニアが微笑を漏らす。
「いいぞ。自分の意見を言わず、あくまで上司の指示を待つ。
諜報部員として、たとえ上司が相手でも手の内を明かさない」
あくまで静か。しかし四方から圧迫されるような雰囲気の中、
フジコは汗一つかかず、直立不動の姿勢を崩さない。
「この圧を受けてもなお、眉一つ動かさない胆力、称賛に値する」
だが、そう言うと、ハルモニアはフードを脱いだ。
途端に、ハルモニアの体から黒い煙のような“瘴気”が立ち上る。
「!?」
フジコの後ろ手に組まれた手に力が入り、奥歯を噛みしめる音だけが漏れる。
「そうだ。私は魔王軍三魔将《調律者》、ハルモニア。
魔王ノクス亡き今、“元”魔王軍、だがねー―」
フジコの頬に汗が伝うのを眺め、微笑むハルモニア。
「いいぞ、フジコ。
だが、お前も薄々は感づいていたのだろう?
私が皇帝陛下、レギウス三世に色々と、“囁いて”いたことを」
滔々と、しかし自分の自慢話をするようにハルモニアが話す。
「だがね、誤解は解いておきたいと思ってね。
そう、誤解だ。私は皇帝を唆しているわけでは無い。
あくまで陛下の、望むものを提供しているにすぎないのだよ」
「“魔弾銃”に代表される闇属性魔法、その研究。
“GG14”のプロトタイプ、“GG00”の提供。
諜報部に潜む“暗殺部隊”。とかね」
「つまり我らは“共犯関係”。利用し利用される関係なのだ」
「利用“し”?それではあなたは何を望むの?」
と、そこで初めてフジコが口を開いた。
「いいぞ。独り言かと心配になっていた所だ。
――そして、私が“何を望むのか”。だったね」
ハルモニアは、にへら、と口元を綻ばせ、
「それはね――。
レギウスの創る“新世界秩序”だよ!
あの大魔王ノクスですら成し得なかった“完全”なる世界!」
もはや、敬称すら忘れ悦に入るハルモニア。
「あの“女神”が目指した“揺らぎ無き世界”。
ノクスが“負”で満たすことで目指した“完全なる世界”。
それを“正”の側である奴が実現させるのだ!」
「この私が“調律”することでね!」
「フフ、フハハハッ!」堪らずといった様子で笑う、ハルモニア。
もはやフジコも目に入らない勢いで笑い続けていたが、
「そこで、だ」急に笑いを止め、目に力が籠る。
静寂が部屋に満ちる頃、
「《光輪の乙女たち》は知っているね」と、ハルモニアが言う。
「確か、“希望の象徴”として“バベルの塔”に祀られる、とか。
今は“講習会”と称して、帝国の威光をその身に染めさせている所」
フジコの答えに満足を見せ、ハルモニアが言った。
「ああ、そうだ。
だが、“講習会”において、奴らはあまりよろしくない方向を向いている節がある。奴らは女神と同じ“高見”から、この世界を見るべきだ。分かるね?」
「つまり、“監視”ですか?
“よろしくない方向”とやらに向かうのを阻止せよ。と」
フジコの言葉に満足したように頷き、ハルモニアが言った。
「そうだ。あれでも奴らは“勇者PT”。
天上にいてもらわねばならん。
地上で暴れられては面倒でな」
ふぅ、とため息を一つつき、
「では、奴らの動きに怪しいものが感じられたら報告せよ」
そうハルモニアが会話を締めた。
フジコは何も言わず、頭を下げると部屋を出た。
(結局、“三魔将”などと言っても、
誰かに自慢したかったのね。
発想がクソガキ。くだらない)
後ろ手に戸を閉めると、ひたすら前を見て歩く。
レギウス城の正面から出て、街並みを見渡す。
“ゴーレム部隊”が集団を引き連れ、何処かへと向かっている。
(そして“勇者PT”、ね。
“高見”だか何だか知らないけど、眩しいったらないわ)
(あら、私としたことが、口が悪かったわね。誰の影響かしら?)
などと、自分のやり場のない思いを抱え、
フジコは晴れ渡った空を恨めしそうに見上げ歩くのだった。




