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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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【幕間】フジコは裏から世界を見る③

 レギウス城内、《諜報部長官室》。

 休養中だったはずのフジコは、諜報部長官であり、“元”魔王軍三魔将の一人、《調律者》ハルモニアに呼び出しを受けていた。


 雑多な書類の折り重なる机の前で、フジコは直立不動で立っていた。


「やぁ、休養中のところ済まないね、フジコ。

 急な呼び出し、心当たりはあるかね?」


 机の向こう、ハルモニアはフードを被ったまま、フジコに問うた。


「いえ、皆目見当もつきません」


 直立不動の姿勢を崩さず、フジコが答えた。

 その様を見て、くっくとハルモニアが微笑を漏らす。


「いいぞ。自分の意見を言わず、あくまで上司の指示を待つ。

 諜報部員として、たとえ上司が相手でも手の内を明かさない」


 あくまで静か。しかし四方から圧迫されるような雰囲気の中、

 フジコは汗一つかかず、直立不動の姿勢を崩さない。


「この圧を受けてもなお、眉一つ動かさない胆力、称賛に値する」


 だが、そう言うと、ハルモニアはフードを脱いだ。

 途端に、ハルモニアの体から黒い煙のような“瘴気”が立ち上る。


「!?」


 フジコの後ろ手に組まれた手に力が入り、奥歯を噛みしめる音だけが漏れる。


「そうだ。私は魔王軍三魔将《調律者》、ハルモニア。

 魔王ノクス亡き今、“元”魔王軍、だがねー―」


 フジコの頬に汗が伝うのを眺め、微笑むハルモニア。


「いいぞ、フジコ。

 だが、お前も薄々は感づいていたのだろう?

 私が皇帝陛下、レギウス三世に色々と、“囁いて”いたことを」


 滔々と、しかし自分の自慢話をするようにハルモニアが話す。


「だがね、誤解は解いておきたいと思ってね。

 そう、誤解だ。私は皇帝を唆しているわけでは無い。

 あくまで陛下の、望むものを提供しているにすぎないのだよ」


「“魔弾銃”に代表される闇属性魔法、その研究。

 “GG14”のプロトタイプ、“GG00”の提供。

 諜報部に潜む“暗殺部隊”。とかね」


「つまり我らは“共犯関係”。利用し利用される関係なのだ」


「利用“し”?それではあなたは何を望むの?」


 と、そこで初めてフジコが口を開いた。


「いいぞ。独り言かと心配になっていた所だ。

 ――そして、私が“何を望むのか”。だったね」


 ハルモニアは、にへら、と口元を綻ばせ、


「それはね――。

 レギウスの創る“新世界秩序”だよ!

 あの大魔王ノクスですら成し得なかった“完全”なる世界!」


 もはや、敬称すら忘れ悦に入るハルモニア。


「あの“女神”が目指した“揺らぎ無き世界”。

 ノクスが“負”で満たすことで目指した“完全なる世界”。

 それを“正”の側である奴が実現させるのだ!」


「この私が“調律”することでね!」


「フフ、フハハハッ!」堪らずといった様子で笑う、ハルモニア。


 もはやフジコも目に入らない勢いで笑い続けていたが、


「そこで、だ」急に笑いを止め、目に力が籠る。


 静寂が部屋に満ちる頃、


「《光輪の乙女たち》は知っているね」と、ハルモニアが言う。


「確か、“希望の象徴”として“バベルの塔”に祀られる、とか。

 今は“講習会”と称して、帝国の威光をその身に染めさせている所」


 フジコの答えに満足を見せ、ハルモニアが言った。


「ああ、そうだ。

 だが、“講習会”において、奴らはあまりよろしくない方向を向いている節がある。奴らは女神と同じ“高見”から、この世界を見るべきだ。分かるね?」


「つまり、“監視”ですか?

 “よろしくない方向”とやらに向かうのを阻止せよ。と」


 フジコの言葉に満足したように頷き、ハルモニアが言った。


「そうだ。あれでも奴らは“勇者PT”。

 天上にいてもらわねばならん。

 地上で暴れられては面倒でな」


 ふぅ、とため息を一つつき、


「では、奴らの動きに怪しいものが感じられたら報告せよ」


 そうハルモニアが会話を締めた。


 フジコは何も言わず、頭を下げると部屋を出た。


(結局、“三魔将”などと言っても、

 誰かに自慢したかったのね。

 発想がクソガキ。くだらない)


 後ろ手に戸を閉めると、ひたすら前を見て歩く。

 レギウス城の正面から出て、街並みを見渡す。

 “ゴーレム部隊”が集団を引き連れ、何処かへと向かっている。


(そして“勇者PT”、ね。

 “高見”だか何だか知らないけど、眩しいったらないわ)


(あら、私としたことが、口が悪かったわね。誰の影響かしら?)


などと、自分のやり場のない思いを抱え、

フジコは晴れ渡った空を恨めしそうに見上げ歩くのだった。

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