第七話 やっぱり懺悔はつらいよ
イェルクの《点火の腕》完成もあり、
その夜は“フォレスト”内で宴会が行われた。
「トラジロウたちの旅立ち、その壮行会だ!
ほら、お前ら、どんどん飲め!ガハハっ」
ボルカンの掛け声で、普段は物静かなエルフたちまで楽しそうな歓声を上げている。寅二郎もイェルクの肩を抱きながら、大声で笑っている。
「もう。ボルカンはあんなに嬉しそうに。
でも、ごめんなさいね。パトラは“ガーデン”に戻っているの」
国主ミレイアも多少は酔いが回っているのか、ほんのりと頬を染めている。
「パトラ様は何かあったのですか?」
シドが、ミレイアに酒を注ぎつつ言った。
「いえ、そう心配することではないの。
“GG14”への対応を徹底させるために少し、ね」
ミレイアは注がれた酒を転がすように眺め、言った。
「なるほど。下手に騒がず、距離を保たせる。
やはり、国内では“ゴーレム部隊”への反感が、あると」
シドが頷き、ミレイアはシドの顔を見つめる。
「獣人たちからすれば、“我らの居場所”を奪うもの。
――そう息巻く者も少なからずは、ね」
ミレイアの言葉に、シドが俯く。
(やはり、
今はまだ“ゴーレム部隊”と正面からやり合うべきでは無い。
いくらイェルクの《点火の腕》があるとしても、……だ)
笑い声の飛び交う会場で、一人俯くシドをリラも心配そうに見つめる。
(シド、やはりあの事を気にしているのね)
リラの心配はその夜、表面化した。最悪の形で。
「トラジロウ、ちょっといいか?」
シドが寅二郎に声をかけた。
「ん?どうした、シド」
顔を真っ赤にした寅二郎は、シドとともに席を立った。
(シド?まさか……)
リラは二人の背中をずっと見つめていた。
二人はあてがわれた寝所へ入った。
シドが先に入り、寅二郎が入ると戸を閉めた。
「何だよ。ずっと黙ったままで」寅二郎が言った。
シドは振り返り、寅二郎に言った。
「トラジロウ、こちらに戻る前、帝国であったことを覚えているか?」
「ん?何のことだ」
「検問所を抜ける前に騒ぎがあった。
その時、お前に『覚悟はあるか』と聞いた」
「ん?……確か『この先に進む覚悟』とか何とか」
「そうだ、その“覚悟”。今もあるか?」
シドが寅二郎を睨む。
寅二郎の酔いはすっかり冷めている。
「何なんだよ。一体」寅二郎が言う。
シドは深く呼吸をし、
「あの時、冒険者が“ゴーレム部隊”に捕らえられていた」
そう言った。
「!?」寅二郎の体が跳ねる。そして、
「それって」と呟いた。
「そうだ。あの時、俺はそれをあえて見せないようにした」
シドが下を向く。
「おい!」寅二郎がシドの肩を掴む。
そして、シドを揺すりながら叫ぶ。
「何だよ!それって……」
シドを睨みつけ、なおも叫ぶ。
「それって、俺が“ゴーレム部隊”との喧嘩に首を突っ込んで、
しかも、俺が“ゴーレム部隊”に捕まる。そう言ってんのか!」
シドは肩を揺すられながらも寅二郎を睨む。
「そうだ。お前はあの場で絶対そうする。
そうなったらお前は奴らに……」
ドゴン!
寅二郎がシドを殴りつけた。
ドン!――シドは壁に激しく体を打ち付けられた。
「お前!馬鹿にしてんのか!」
寅二郎はシドを殴った拳を震わせている。
「しかも、冒険者を見殺しにしたってことだろ!
“ゴーレム部隊”が冒険者を襲ってたんだろ!それを……」
口から血を流しながら、シドが立ち上がる。
「そうだ。俺はあの冒険者を見殺しにした。
それでも、俺はトラジロウ。お前を捕まえさせるわけにはいかない」
シドはふらつく足取りで、寅二郎に歩み寄る。
拳を震わせたままの寅二郎の前に立つシド。
「イェルクの《点火の腕》、あれは確かに“希望”だ。
だがな、俺にはお前こそが“希望”なんだ!」
シドの目から涙が一筋流れる。
「俺はお前を皇帝の前に立たせる。そのためには何だってする。
何があろうともだ!お前にその覚悟はあるのか!」
シドの涙の訴えに、寅二郎が目を伏せる。
「馬鹿野郎。……馬鹿野郎が……」全身を震わせ言った。
そして、
ドゴン!
再び寅二郎は殴った。
しかし、それは壁だった。
無言の寅二郎は部屋を出ていく。シドはその場にへたり込んだ。
部屋の外で、リラは二人の話を聞いていた。
そのリラの顔を一瞬見た寅二郎だったが、何も言わずどこかへ消えた。
リラは部屋に入り、シドに寄り添う。
「シド、……」回復魔法をかけようとするリラの手を取り、
「いいんだ。このままで……。
大丈夫。あいつは、トラジロウは戻ってくるさ」
そう言って立ち上がった。
「シド……」それでも心配そうなリラに、
「大丈夫。トラジロウは戻ってくる。
あいつは“勇者”なんだから――」
シドの顔は晴れやかだった。
しかしリラは、
(違うの、シド。あなたはそれでいいの?あなたは……)
そう涙を流し、
寅二郎は朝まで戻っては来なかった――。




