第六話 反撃はつらいよ④
寅二郎が《点火の腕》の運用試験をしていた頃、
帝国の参謀本部将軍ゴールドールの下に、一人の密偵が報告に来ていた。
「将軍、ルゼリアからの“GG14”の購入代金が入金されました」
「ふん、あれは“大地炉議会”との“技術交流”、その一環だ。
あくまで“俺の好意”に対するそのお礼。
まぁいい。その代金、諸国の要人に配布する手筈は済んでいるな」
頷く密偵を送り出し、ゴールドールはほくそ笑む。
(ふむ、皇帝陛下の治世は絶対。
その治世には俺の居場所も確保せねばな……)
そして《調律者》ハルモニアは、皇帝レギウス三世の横で囁いていた。
「よろしかったので?
将軍の独断による“GG14”売却。
それもルゼリアの“大地炉議会”ですが」
眉一つ動かさず、レギウス三世が言う。
「構わん。それを元に逆らうようなら排除するまで」
ハルモニア以外誰もいない謁見の間に、レギウス三世の声が響く。
「“踏み絵”、結構なことだ。
ゴミは早いうちに処理すべきもの。
ゴミが炙り出されるならそれも良し」
レギウス三世は有りもしない袖のゴミを払う。
「それに、
何かあればその責は独断した将軍にある。
朕の“完成された世界”にミスや間違いなど無い」
何も言わずハルモニアは頭を下げて消えた。
誰もいない謁見の間で、レギウス三世はどこか遠くを見ていた。
――そして、“フォレスト”内の訓練場では、
ひとしきり、喜びを噛みしめていた寅二郎たちに、
イェルクが眉を寄せ、言った。
「済まない、トラジロウ」
「何が?」寅二郎がイェルクに顔を向けると、
「《点火の腕》、全ての“GG14”に効く訳じゃないんだ。
個体差や、活動中の個体には効かない場合もあり得るんだ」
イェルクが申し訳なさそうに俯いている。
寅二郎は、イェルクの顔を覗き込む。
「顔を上げろ、イェルク。十分だよ。
お前は“希望”を作ったんだ!」
そう言ってイェルクの肩を掴み、
「胸を張れ!俺たちはこれを持って帝国へ行く!」
そして、イェルクに微笑みかけた。
イェルクは寅二郎の顔をまっすぐ見据え、涙を流した。
「頼む。生きて帰って来てくれ。
俺に《点火の腕》、その性能報告を聞かせてくれ!」
「分かった。待ってろよ」
そう言って寅二郎が振り返る。
シドやリラに顔を向け、
「行くぞ!」
そう声を上げるのだった。




