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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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第五話 “新”世界はつらいよ④

“技術交流会館”でトングから明かされた帝国の人口把握技術。ゴーレムを介した人口統制計画。その衝撃に、寅二郎たち三人の足取りは、我知らず早くなっていた。


「今も俺たちの足取りは把握されているってわけだ」

 寅二郎は苦笑しつつ、歩いている。

「ああ、だが俺たちは特別何もしちゃいない。堂々としていればいい」

 そう言いながらも、シドの足取りも早い。

「会話は聞かれていないって話だけど、……早くこの国を出たいね」

 キョロキョロと周りを見回しながら、リラの頬には汗が伝う。


「やっぱり“鍵”はゴーレム。だろ」


 寅二郎は背伸びをしながら、空を見上げる。

「とりあえず、ルゼリアに戻ろう。イェルクと相談しよう」

 そう言いながら三人は検問所へ向かっていた。


 もう少しで、検問所、という所で何やら騒ぎ声が聞こえてきた。


「何だ?」寅二郎は少し先に人だかりができ始めるのを見かけた。


 そして、シドが耳を澄ますと、


『“帝国国民証”が何だってんだ!』


(あの声は!)シドはその声に聞き覚えがあった。

(!?)そしてシドは、人垣の先に“それ”を見た。


 寅二郎たちが入国する際、揉めていた冒険者。大剣を担いだ男が、“ゴーレム部隊”に詰問されていた。今見えたのは、その大剣の先だった。


(あの冒険者、まさか!)シドはより耳を澄ます。


『“帝国国民証”くらいで、ここまでされるのかよ!』


 その瞬間、シドは“最悪の瞬間”を想像し、

 人垣に割り込もうとする寅二郎の腕を掴んだ。


「おい、シド。どうした?」


 騒ぎに興味津々の寅二郎の顔を、シドは睨みつけた。


「トラジロウ、この先に進む“覚悟”はあるか?」


 突然のシドの問いに、首を傾げる寅二郎。


「何だってんだよ。だからルゼリアに戻ろうってんだろうが」

 そう言う寅二郎を、シドは腕を引きながら検問所へ導こうとしていた。

 そのシドの真剣な表情、そして人垣から漏れ聞こえる声に、

 リラも気付いた。シドの行動の意図するところを――。


(シド。トラジロウにこの騒ぎを“見せない”つもりね……)


「おいおい!何だってんだ。痛ぇぞ、シド」

「だから!お前の覚悟を聞きたいんだ」


 そんな二人のやり取りに、リラが割って入る。


「ちょっと、二人とも。もう検問所だよ!

 私、もうこの国を出たい。ここ、何だか怖い」


 そう言って見つめてくるリラの視線に、シドも気付いた。


(リラ!私の意図に気付いてくれた!)


 そうしてリラも、寅二郎を引きずるように歩き出す。


「何だってんだ、二人とも」

 首を傾げ続ける寅二郎を連れ、三人は検問所を抜けた。


 途中でルゼリアに行くという乗合馬車を見つけ、乗り込む三人。

 そして、馬車の中、遠くに見える検問所を見つめ、シドは思う。


(おそらくあの時、冒険者が帝国に“拘束”されていた。

 そんな場面、トラジロウは間違いなく首を突っ込む。

 そうなれば、確実にトラジロウが帝国に目を付けられる。

 今は駄目だ。トラジロウは“希望”。だから、今は……)


 そして、シドは拳を握り自分の胸に当てる。


(たとえ、トラジロウに殴られようと、軽蔑されようと、

 今、トラジロウと帝国をぶつけさせはしない!)


魔王との最終決戦。寅二郎との距離に慟哭し、

生きて戻った寅二郎と再会し、縮まったと思ったその距離。

二人の間に、自ら溝を掘ったように感じ、

シドは握る拳、その震えを止めることが出来ないのだった。


閑話:松風ヤスコは思い出す


 勇者PT《暁の翼》の牽制役、頭脳担当の松風ヤスコは“ゴーレム部隊”を引き連れて歩いていた。


 その後ろで参謀本部将軍、ウインバッハが声を上げる。

「困りますなぁ。聖女様よろしくこんな勝手を言い出されては」

 その声に肩を竦め、ヤスコは返す。

「ごめんなさいね。でも私、前世で“検察”という仕事をしていたので、

 とても興味があるんです。ココに……」


 そう言ってヤスコはその建物を見上げた。


《ガルディア帝国治安統制院》


 重厚な建物が並ぶレギオンブルクの中でも、ひときわ重い空気を纏っている。窓には全て鉄格子が嵌められ、その威容は警察署というより監獄だった。中へ入ると、空気まで重く感じる。


(この息苦しい感じ。懐かしいわね)


 ヤスコは苦笑いのまま、廊下を進んでいた。

「で、ヤスコ殿は何をご覧になりたいので?」

 後ろでウインバッハが声を上げる。


 そして、ヤスコの背中に、

 彼は“こんな所、とっとと出たい”

 という無言の圧をかけてくる。


「ふふ、“ゴーレム部隊”による人口把握。

 そして犯罪者たちに目を光らせ、

 “犯罪の芽”を即座に摘んでしまう。

 そんな素晴らしいシステムを、

 後学のために見ておきたくなりまして……」


 ウインバッハの圧など、なんのその。

 ヤスコはどんどん奥へと歩を進める。


 そして、ヤスコは足を止めた。


 廊下から中が見えるように、ガラスが張られている。

 そのガラス越しに中を眺める男。

 白衣にもじゃもじゃの白髪。


 その姿を見たヤスコは、

(思わず、“博士”って名づけたくなる人ね)

 そう微笑みながら、男に声をかけた。


「失礼。こちらは何をしているところですか?」


 ヤスコも中を伺うと、大柄な男に何やら話しかける男。

 尋問中の様だ。大柄な男の後ろにはローブ姿の二人が立っている。


「ああ、先日検問所付近で暴れた冒険者をの、

“更生”、させているところですじゃ」


“博士”と名付けた男の言葉に吹き出すのを堪え、

 ヤスコが質問を投げた。


「“更生”?失礼ですが、あの男は何をしたのです?」

“博士”はくっくと笑い、

「度重なる“帝国国民証”の紛失、

 それを咎めると暴れ出しての。“反逆罪”と相成った」


“反逆罪”、その言葉の重みにヤスコは沈黙する。


「ほれ、見ていてくだされ。犯罪者が“更生”され、出てくるぞぃ」


 もはや“博士”の言葉に笑うことも出来ず、

 中の男にじっと見入っていた。


 すると男の後ろにいたローブ姿の二人。

 男に手をかざすと、


ビクンッ!


 と、男が身を竦ませ、下を向いてしまった。

 しかし、すぐに張り付けたような笑顔で立ち上がり、

 外へと出てきた。


 追いかけてきたローブ姿の男に、大剣を渡されると、

「ありがとうございます。それでは失礼いたします」

 そういって頭を下げ、歩いて行った。


「今のは?」ヤスコは大剣を背負った男の背を見つめる。


「あの男は、“第二の人生”を歩き出したのですじゃ」


“博士”の言葉、男の大剣を眺めながらヤスコは思い出していた――




「松風検事!あの男の尋問、危険では?」

 スーツ姿の後輩、その男の心配そうな顔に、


「“DV”の果てに、交際相手を絞殺。

 あの男の闇、見極めたいの」


 ヤスコは、そう返して被疑者と対峙する。


「あなた、何故あの人の首を絞めたの?

 日々暴行を加えていたようだけど、あの日はなぜ?」

 椅子に縛られ、手錠もかけられた男が叫ぶ。

「うるせぇ!あの女が逆らうから!

 俺様をムカつかせたから、首を絞めてやったんだよ!」

 椅子をガタつかせ、叫ぶ男にヤスコも叫ぶ。


「それだけ?それだけの理由で人を殺すの!?」


 ヤスコは立ち上がり、机を叩く。

 その瞬間だった。男が立ち上がったのは。

 服を引きちぎる勢い、手錠から血を滴らせ、


 男はヤスコの首に噛みついていた。


(!?)ヤスコは音の無い世界にいた。


 血まみれで笑う男、そこへ飛びつく男たち。

 全てが画面の中の映像の様に見え、

 突然、その画面は暗転した。


(人の闇、これ程に深いものだったのね……)




――ヤスコはそれでも男の背中に思った。

(前世でのあの男は、死刑になるのでしょうね。

 でもそれは“人”として罪を償うための罰。


 でもあの男、大剣を担いだあの男は、

 “人”として終わらせてもらえないのね。

 洗脳され、“第二の人生”という名の道具にされてしまったのね)


 ヤスコは眉を寄せる。そして、


(人の“闇”、帝国の“闇”はここまで深い)

 ヤスコは拳を握る。

(だけど、アンナたちの“光”には触れさせない!)

 徐々にその拳に力がこもる。


 (《光輪の乙女たち》、その光の中にある“黒”。

 私が、アンナたち“光”に“闇”を近づけさせない!)


誰も声を上げない静かな廊下、

居心地悪そうに衣擦れの音を立てるウインバッハを無視して、

一人、ヤスコは立ち続けるのだった。

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