第五話 “新”世界はつらいよ①
帝国の今を知る――。
そのために寅二郎たちは帝都レギオンブルク、その検問所に立っていた。“皇帝レギウス三世治世30周年記念式典”に参加しようとする人々が行列を作っている。
「すごい人だな。次から次から列が伸びてるぜ」
寅二郎がその人々の列を眺め、
「まぁ、人々にとっては“祭り”だからな」
「うん、みんな楽しそうだよ」
シドやリラも、行列に並ぶ人たちの表情を眺めている。
「次」帝国兵に呼ばれ、寅二郎たちの番が来た。
寅二郎たちがギルドの会員証を提示すると、
「ふむ。これからはこれを……」兵士はそう言って、カードを差し出してきた。
「“帝国国民証”?」寅二郎がようやくの態で読み上げた。
「おお、トラジロウ。だいぶ読めるようになったじゃないか」
「何だかんだ、勉強してたもんね。トラジロウ」
「はは、そうだろう?俺だってこれくらいはな!」
そんな寅二郎たちの会話を遮り、
「無くすんじゃないぞ。――では、帝国へようこそ」
兵士はそう言って、寅二郎たちを送り出した。
「無くすな。か、まぁいいけどよ」
検問所を抜けた寅二郎が、そのカードを眺めていると、
「おい!“帝国国民証”をどうした!」
と、怒鳴り声が聞こえた。
寅二郎たちがそちらを見ると、
大剣を背中に担いだ、見るからに冒険者が、帝国兵に叱責されていた。
「何だよ。ギルドの会員証なら持っているんだぞ」
大柄なその冒険者が、反論するが、
「貴様、何度目だ!そこに検問所がある!
すぐに再発行してもらうんだ!」
怒鳴りつけた帝国兵の後ろに、ゴーレムたちが並ぶ。
その視線が冒険者に集まる。
その無言の圧に屈するように、冒険者が検問所へ歩いていく。
「なんだ?ありゃ」寅二郎が眉を寄せ、
「さぁな、気になるならギルドへ顔を出してみるか」
シドがそう言い、三人はギルドへと足を向けた。
軍人が討伐などもこなす。以前から冒険者には肩身の狭い帝国だったが、ギルドの前に立った寅二郎は声を上げた。
「何だ?ギルドの名前が……」
寅二郎が指差すと、看板には《帝国職業斡旋所》と書かれていた。
三人で中へと入ると、冒険者と思われる者の姿はまばらだった。
「あの?ギルドはどうなっちゃったんですか?」
リラが受付の男に尋ねる。すると、
「帝国内では、ギルド制を撤廃する方向で動いております。
S~D、そんな危険を承知で仕事をこなす。そんな人材を必要としない世界。
適した者が適した仕事をこなす。そんな世界に動いているのです」
受付が笑顔で答えた。
「!?」思わず寅二郎は拳を握っていたが、
シドにその拳を掴まれていた。
無言で首を振るシドを睨む寅二郎。
「ちょっと。二人とも。……出よう」
リラが二人を引きずるように、ギルドを後にした。
「ああ、俺が大人げなかったよ。あ~あ」
そう不満をまき散らしながら、頭の後ろで手を組み歩く寅二郎。
(帝国に入った途端。……これだ。先が思いやられるな)
シドもため息をつきながら、ボルカンに紹介された、
帝国とルゼリア、その技術交流の施設、《技術交流会館》へと歩き出した。
そんな三人の足取りはとても重いものだった。




