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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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【幕間】フジコは裏から世界を見る②

――小さいフジコが声を上げる。


「お母さん!」


 そんなフジコに微笑みかける母、マーガレット・オハラ。

 少しやつれた表情ながら、駆け寄ってきたフジコを優しく抱きとめる。


「ふふ、フジコはいつも元気ね」


 マーガレットは皇帝レギウス三世付きの侍女の一人だった。フジコと同じ豊かな赤い髪の女性で、肉感的な体つき、そして明るい笑顔が侍女の間でも人気の女性だった。


 だが、


「朕の創る世界に“世継ぎ”はいらん」


 そう宣言するレギウス三世の下、侍女たちは人知れず堕胎させられていた。

 それでも、マーガレットはフジコを生み、育てた。侍女たちからも距離を取られ、針の筵に座るような生活の中、懸命に日々を生きていた。


 そんなフジコ、五歳の誕生日。

「来い、皇帝陛下がお呼びだ」

 黒の全身鎧の男が、フジコをどこかへと連れ去る。

「お母さん!」「フジコ!」

 泣き叫ぶ母娘を引き裂き、

 フジコが連れてこられたのは皇帝レギウス三世の御前。


「ふん、これがマーガレットの娘か」


 フジコを見下ろし、レギウス三世が鼻を鳴らす。


「朕の野望、帝国の悲願、その思想を再現できるか。

 そなたで試してみることとする。――連れていけ」

 その声に、誰一人、逆らう者はいなかった。


 そして、フジコは帝国の影に引き込まれてしまった。

 密偵としての修行の日々。

 人を欺くことを当たり前とし、殺すことも厭わない。

 心に潜り込み、徹底的に利用する。


 そんな生き様が体に染み込んだ頃、


「成績優秀、密偵として素晴らしい逸材となりました」


 諜報部、指導役の男の声を跪いたまま聞くフジコ。

 彼女の頭上で、レギウス三世の声が響く。


「そうか。では早速、使うとしよう――」


 その一声で、フジコは密偵としての日々を歩き出す。

 多少の自由を得られた彼女は、とある場所に来ていた。


「お母さん」


 フジコが呟くその先にあるのは、お墓だった。


 銘は“マーガレット・オハラここに眠る”――。


 ひたすら涙が零れ、止まらなかった。


 握り拳から血を滴らせたフジコは、


(女性を性の捌け口としてしか、見ない獣。

 そして私を“帝国野望の為の実験”?


 いいじゃない、見せてあげるわ。

 あなたの言う“完成した帝国”。


 そして見るがいいわ。

 完成した帝国が音を立てて崩れるその様を――)


 そう言って、マーガレットの墓に背を向け歩き出すフジコ。

 彼女の顔にはもう、涙の跡すら残っては無かったのだった――。




「フジコ?」


 シルバージルの言葉で、フジコは我に返った。

「大丈夫か?心ここにあらずって感じだったが……」

 心配するシルバージルにフジコは微笑んだ。


「大丈夫よ。ちょっと飲みすぎたのかも。

 もしくは、あなたの家族自慢で胸焼けしたかもね」


 そう言って舌を出す、フジコ。


「何だい、それは。ひどいじゃないか」


 二人は微笑みを交わし、


「ごちそうさま」


 そう言って別れた。

 シルバージルは明るく照らされた大通りを。

 そしてフジコは光も差さない路地裏へと。


その影に入る瞬間のフジコの顔には、

もう、どんな表情も浮かんではいなかった――。

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