【幕間】フジコは裏から世界を見る①
帝国の女スパイ、フジコ。“ゴーレム部隊”の心臓部、“歩く炉”の奪取など、世界各地のダンジョンで暗躍していた。そんな彼女は今、皇帝レギウス三世の命を受け、帝都レギオンブルクで休養の日々を送っていた。
道の両脇の建物は直線的で重厚、黒鉄の窓格子は槍のように鋭く、赤茶の煉瓦壁には軍旗や行政紋章が掲げられている。そんな夕闇のレギオンブルクを歩いていたフジコが声を上げた。
「あら、シルバージル将軍?」
フジコの視線の先には、“ゴーレム部隊”の隊長、ガルディア帝国参謀本部将軍シルバージルの姿があった。見慣れた黒の全身鎧ではなく純白のシャツに、パンツ姿、普段着のそれであった。
「ああ、あの時の、……確かフジコか」
シルバージルが足を止め、フジコへ振り返る。
「これって運命というのかしら?
何かお酒でもおごって下さらない?」フジコが微笑む。
「突然だな」
「何よ、こんないい女が誘っているのよ?」
「いい女は、自分からそんなセリフは言わないものだ」
「いいじゃない?おごりなさいよ」
「仕方ないな……」
シルバージルは、どこかあらぬ方向を見ながら苦笑する。
「どこか、あなたの知っているお店でいいわ。
エスコートしてくださる?将軍様」
そうして二人は、街の食堂へと足を向けた。
夕食時、そして魔王討伐の報が入った最近では、それまで静かだった店内も歓談する声が聞こえてくる。
「それでは、再会に乾杯」
そう言って二人はグラスを合わせる。
「誘っておいてなんだけど、良かったの?」
フジコが口元に笑みを浮かべる。
「ああ、ワイバーンの群れを討伐する任務だったのだが、
思ったより早く終わってね。時間が出来たんだ」
グラスに口をつけるシルバージルだったが、どこか上の空に見える。
フジコが眉を寄せるのを見て、シルバージルが苦笑する。
「ああ、早く済んだので、
家に帰ろうと思っていたところだったんだ」
「家?」
「ああ、妻と娘が待っているんだ。
しかし、思ったより早く済んだことだし構わないだろう」
そう言って苦笑するシルバージルに、
「悪い男。奥さんや娘さんを置いてこんなところで……」
「君が誘っておいて、ひどいな。
しかし、彼女たちなら許してくれるさ」
そして、シルバージルが家族の話を始めた。
家族の話を笑顔で語るシルバージルの顔を見ながらフジコは思い出していた。
今のフジコの始まり。
“すべてを失った”、小さかったあの頃のことを――。




