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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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第三話 再起はつらいよ②

 寅二郎たちはイェルクがいるという酒場を目指して、首都リュゼリオンの街を歩いていた。夕闇の街中を、仕事帰りのエルフやドワーフ、獣人たちが足早に通り過ぎていく。


「あ、アレを見て」とリラが指差す。

 寅二郎とシドがリラの指さす先を見ると、


「あれは……」


 帝国の“ゴーレム部隊”が橋を直していた。


「ルゼリアの首都、リュゼリオンにまであいつらが……」

 シドは声を上げ、しばらく呆然と立っていた。

 寅二郎もしばらく眺めていたが、

「今は、……イェルクに会いに行こう」

 そう言って歩き出した。


 ボルカンにもらった地図、

 そこに書かれた酒場に着いた。

 中に入り、見回すと、

「いたぞ、あそこだ」

 シドが酒場の奥、その端の方を指差した。


 三人が歩いていくと、そこにイェルクが酒を呑んでいた。

 テーブルには幾つも空のグラスが並び、

 イェルクは痩せた頬、真っ赤になった顔で、


「ああ、トラジロウたちか……」


 そう言って手に持った酒を飲み干した。

 寅二郎たちも席につき、酒を注文すると、

 それきり、黙って酒を飲み始めた。


 誰も何も言わず、しかし店内の喧噪だけが聞こえる。


 そして、空のグラスがいくつか増えた頃、


「何しに来たんだ? トラジロウ」と、イェルクが言った。


 しかし、寅二郎は何も言わなかった。


 再び、沈黙。


 そしてまたグラスが空になると、


「“ゴーレム部隊”。アレのことで言いたいことでもあるんじゃないのか」


 と、イェルクが言った。

 それでも、寅二郎が何も言わないでいると、


「ああそうだよ!あれは俺の“歩く炉”だよ!

 お前らも知ってるだろう!帝国に奪われた俺の技術!

 あの場にいたんだ、見ていただろうが!」

 そう叫び、グラスを机に叩きつけた。


 その衝撃で、空のグラスが幾つか落ちる。

 寅二郎だけでなく、シドやリラも何も言わない。


「だがな!あれは“失敗”だ!“俺の失敗作”なんだ!」

 そう叫び、イェルクは立ち上がった。


 ふぅふぅと息を吐きながら、寅二郎を見下ろすイェルクに、

 すっと立ち上がった寅二郎が、イェルクと目を合わせ言った。


「あれは“失敗”か?イェルク」

 そう言った寅二郎をイェルクが睨む。


「ああ、“失敗”だ!」

 そう叫ぶイェルクに寅二郎が言った。


「ここへ来る途中、あいつらが橋を直していたぞ?

 それでも“失敗”か?イェルク」


「ああ、“失敗”だ!あんなものは“労働管理”の一端だよ!」


「でも、お前は言っていたぞ?

“危険な坑道でも代わりに行ってくれるんだ”ってな。

 それでも、あれは“完全な失敗”なのか?」


 寅二郎の言葉にイェルクが息を呑んだ。


「あれは“役に立って”ないか?

 みるみる橋が直っていってたぞ?それでも“失敗”か?」


 真っ赤だったイェルクの顔から血の気が引いていく。


「“みんなの役に立つ道具”、それ以外が“失敗”なんじゃないのか?」


 イェルクの顔から酔いはすっかり抜けていた。


「もう一度、やってみないか?イェルク。

 今度こそ、“完成”目指して。どうだ?イェルク」


 イェルクの目から雫が一つ流れた。


「お、俺は……」イェルクのか細い声が零れる。


「俺たちがいる。ボルカンや研究者たちもいる。どうだ?イェルク」


 そう言って寅二郎は席に座り直した。


「ああ、やる。やってやる!今度こそ“完成”させてやるさ!」


 涙を拭い、イェルクが叫んだ。


 シドがふっと息を吐き、リラは涙を流した。


 そして、寅二郎は言った。


「それじゃ、とりあえず今は……」


「乾杯だ!」


 そう言って四人はグラスを合わせた。


 イェルクが酔いつぶれ、机に突っ伏したまま寝ている。

 それを見ながら、寅二郎は言った。


「俺たちは帝国。……だな」

 シドとリラも頷き、三人でグラスを空けた。


そうして、寅二郎たちの次の目的地が、

“不安”のど真ん中、ガルディア帝国に決まったのだった。

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