第三話 再起はつらいよ②
寅二郎たちはイェルクがいるという酒場を目指して、首都リュゼリオンの街を歩いていた。夕闇の街中を、仕事帰りのエルフやドワーフ、獣人たちが足早に通り過ぎていく。
「あ、アレを見て」とリラが指差す。
寅二郎とシドがリラの指さす先を見ると、
「あれは……」
帝国の“ゴーレム部隊”が橋を直していた。
「ルゼリアの首都、リュゼリオンにまであいつらが……」
シドは声を上げ、しばらく呆然と立っていた。
寅二郎もしばらく眺めていたが、
「今は、……イェルクに会いに行こう」
そう言って歩き出した。
ボルカンにもらった地図、
そこに書かれた酒場に着いた。
中に入り、見回すと、
「いたぞ、あそこだ」
シドが酒場の奥、その端の方を指差した。
三人が歩いていくと、そこにイェルクが酒を呑んでいた。
テーブルには幾つも空のグラスが並び、
イェルクは痩せた頬、真っ赤になった顔で、
「ああ、トラジロウたちか……」
そう言って手に持った酒を飲み干した。
寅二郎たちも席につき、酒を注文すると、
それきり、黙って酒を飲み始めた。
誰も何も言わず、しかし店内の喧噪だけが聞こえる。
そして、空のグラスがいくつか増えた頃、
「何しに来たんだ? トラジロウ」と、イェルクが言った。
しかし、寅二郎は何も言わなかった。
再び、沈黙。
そしてまたグラスが空になると、
「“ゴーレム部隊”。アレのことで言いたいことでもあるんじゃないのか」
と、イェルクが言った。
それでも、寅二郎が何も言わないでいると、
「ああそうだよ!あれは俺の“歩く炉”だよ!
お前らも知ってるだろう!帝国に奪われた俺の技術!
あの場にいたんだ、見ていただろうが!」
そう叫び、グラスを机に叩きつけた。
その衝撃で、空のグラスが幾つか落ちる。
寅二郎だけでなく、シドやリラも何も言わない。
「だがな!あれは“失敗”だ!“俺の失敗作”なんだ!」
そう叫び、イェルクは立ち上がった。
ふぅふぅと息を吐きながら、寅二郎を見下ろすイェルクに、
すっと立ち上がった寅二郎が、イェルクと目を合わせ言った。
「あれは“失敗”か?イェルク」
そう言った寅二郎をイェルクが睨む。
「ああ、“失敗”だ!」
そう叫ぶイェルクに寅二郎が言った。
「ここへ来る途中、あいつらが橋を直していたぞ?
それでも“失敗”か?イェルク」
「ああ、“失敗”だ!あんなものは“労働管理”の一端だよ!」
「でも、お前は言っていたぞ?
“危険な坑道でも代わりに行ってくれるんだ”ってな。
それでも、あれは“完全な失敗”なのか?」
寅二郎の言葉にイェルクが息を呑んだ。
「あれは“役に立って”ないか?
みるみる橋が直っていってたぞ?それでも“失敗”か?」
真っ赤だったイェルクの顔から血の気が引いていく。
「“みんなの役に立つ道具”、それ以外が“失敗”なんじゃないのか?」
イェルクの顔から酔いはすっかり抜けていた。
「もう一度、やってみないか?イェルク。
今度こそ、“完成”目指して。どうだ?イェルク」
イェルクの目から雫が一つ流れた。
「お、俺は……」イェルクのか細い声が零れる。
「俺たちがいる。ボルカンや研究者たちもいる。どうだ?イェルク」
そう言って寅二郎は席に座り直した。
「ああ、やる。やってやる!今度こそ“完成”させてやるさ!」
涙を拭い、イェルクが叫んだ。
シドがふっと息を吐き、リラは涙を流した。
そして、寅二郎は言った。
「それじゃ、とりあえず今は……」
「乾杯だ!」
そう言って四人はグラスを合わせた。
イェルクが酔いつぶれ、机に突っ伏したまま寝ている。
それを見ながら、寅二郎は言った。
「俺たちは帝国。……だな」
シドとリラも頷き、三人でグラスを空けた。
そうして、寅二郎たちの次の目的地が、
“不安”のど真ん中、ガルディア帝国に決まったのだった。




