第二話 冒険者はつらいよ⑤
「お爺さま!」そう言ってフランが走っていく。
その姿を眺めつつ、帝国の将軍シルバージルが寅二郎たちの前に立つ。
「終わったようだな。
もしやあれは《ドラゴン・スレイヤー》、ノーマン殿か。
伝説の英雄、凄まじいものだな」
「しかし、“ゴーレム部隊”の力もすごいものだ」
リラから治癒魔法を浴びている寅二郎に代わり、シドが言った。
「力で民の不安を取り除く。これこそがこれからの帝国だ」
シルバージルが言い終わるや、地面が振動し始める。
ゴゴゴゴゴゴゴっ
「何だ!」「大丈夫?これ……」
不安そうな声を上げるシドやリラに向かい、シルバージルが言う。
「これはゴーレムたちがエネルギーを補給しているだけだ。
ワイバーンから街を守った代償。その程度の“揺れ”だ」
シルバージルの言葉に、こちらに戻ったノーマンが言う。
「大地のマナを奪い取ってまで、か?」
「お爺さま……」と呟くフランに構わず、
ノーマンとシルバージルが睨みあう。
「“代償の上に民の安寧を導く”皇帝陛下のお言葉だ。
……しかし、どうやら今回は私たちはお呼びでは無かったようだ」
そっと視線を外したシルバージルが息を吐く。
「ゴーレムたちの補給は終わったようだ。
私たちはこれで失礼させていただこう。
ギルドにはそちらで報告を入れておいてもらいたい」
そう言って、シルバージルたちは帰っていった。
「ふん」ノーマンは鼻を鳴らし、槍についた血を拭い始めた。
そして、リラは歩き出していた。ワイバーンの死体の山に。
「どうした?」シドが問いながら後を続く。
「ごめんなさい。だけどこれだけのワイバーンたち。
せめて供養してあげたくなっちゃって」
ずっとシルバージルの背中に、
何か考え込んでいた寅二郎だったが、
「分かったよ。リラちゅわんは優しいな」
そう言いながらシドとワイバーンの死体を山と積み始めた。
「お爺さま……」フランもノーマンを見つめ、
ふん、とまた鼻を鳴らしながらも二人も加わった。
そして、山となったワイバーンの死体に火をつけた。
リラが手を組み鎮魂の祈りを捧げる。
時折、パチっと火が弾ける音だけが鳴る静寂の中、
「あ!依頼は完了。ってことだよな!」
突然、寅二郎が声を上げた。
そしてフランに駆け寄り、
「フランちゃん!もっこり、お願いしまーーす!」と叫んだ。
目を丸くしたフランだったが、
「ええ、そうでした。もっこりですね」そう答えた。
シドやリラが顔色を変え寅二郎を睨む。
しかし、
「ところで、……もっこり、とは何でしょう?」
とフランが続け、場が一気に凍り付く。
寅二郎ですら、一瞬呆気に取られたが、顔を振る。
「フランちゃん。……もっこりって言うのはね」
そう言いながら、フランに近づいていく寅二郎。
しかしその背後には当然のようにシドやリラ。
「この馬鹿」「お前は本当にぃ!」
シドリラキックをケツに喰らい、その場に取り押さえられる。
「痛い!教えてあげるだけだって!」
涙目ながらもなお、諦めない寅二郎だったが、
「フラン、行くぞ」
ノーマンの一声で、
「すみません。それではまたいつか」
そう言ってフランも歩いて行ってしまう。
「ちょっと待って!……フランちゃーん!」
寅二郎の情けない声を背に聞きながら、フランは微笑んでいる。
そして、フランの前を行くノーマンの口元も、
何やら苦笑を思わせる下がり具合をしているのだった。
閑話:三枝アリアは思い出す
勇者PT《暁の翼》の盾役、三枝アリアはリ・エスティーネ王国騎士団の訓練場にいた。自己鍛錬のためと頼み込み、、エルザたち第三隊の訓練に参加させてもらっていた。
(しかし、これは集団訓練。いや集団の運用訓練と言うべきか?)
5人か、10人。小隊を組んで動く訓練。しかも一人が指示役をこなし、その指示方法に重きを置いている。腕を組み唸っているアリアに第三隊副長エルザが声をかけた。
「やぁ、アリアさん。正直、あなたの訓練にはならないかもしれませんね。
今や我々も帝国の“ゴーレム部隊”――その運用方法、その弱点。そう言ったものを研究しなくてはいけない状況でね。鍛錬は各自でって事が多くなっているの」
「いえ、それも戦術、皆さんも集団戦を想定しているようですし……」
アリアはそう返したが、どうしても皆、頭に“ゴーレム部隊”がちらついているように見えた。そんな訓練を見ながらアリアは思い出していた。父親の顔を――。
武門の誉れ高い三枝家、その長女として生まれたアリアも当然のように木刀を握った。家の為、言われたから、最初はその程度の思いで始めた、気がする。きっかけは思い出せない。しかし、いつしか「強さとは」「どこまでも強くあれ」そんな思いがアリアの当然となっていた。
父の激しい訓練。
容赦なく叩き伏せられ、
「最後は“人”だ」そう言われて終わる毎日。
ひたすら木刀を振る毎日だった。
剣道の全国大会、そこへ進むことが決まった前日。
「木刀より、真剣を握れば人を切れよう。
しかし強さとは人を殺すことか?
否、自身の“幅”だと心得よ。
つまるところ道具など何でもよいのだ。
人を制し、自身を制する。人の幅を広げるのだ」
やけに饒舌に語った父。しかしアリアはそれが嬉しかった。
そして迎えた全国大会の朝、
アリアが駅へと向かうと、
構内で絶叫が響いていた。
「何だ!あの男」「ナイフを持っているぞ」
人混みを掻き分け、アリアが見ると、
口から泡を吹いた男がナイフ片手にふらついている。
「!?」アリアは即座に木刀を抜いていた。
人混みを抜け、男と対峙したはずが、
男は傍の老婆に襲い掛かろうとしていた。
「危ない!」
アリアは木刀を投げ捨て、迷うことなく老婆を庇い覆いかぶさっていた。
ドン、そんな音がして背中に熱いものを感じ、いつしか意識が薄れ、
(父上、私はまだ未熟だったようです……)
次の瞬間、“英雄召喚”の祭壇で目が覚めていた――。
「アリアさん?」アリアはエルザに声を掛けられていた。
アリアは頭を振り、
「ああ、済まない。私はあちらで剣を振ってくる。ではまた」
そう言って歩き出した。
(今度こそ、私の“幅”で皆を守ります。父上……)
「最後は“人”」その思いでアリアは一人剣を振るのだった。




