第二話 冒険者はつらいよ③
静まり返ったギルド内を、
無人の野を行くが如く歩く《ドラゴン・スレイヤー》、ノーマン。
ギルドマスターの前に立つと、ようやく口を開いた。
「各地でのドラゴンの生態調査、
その途中であの黒雲がごときワイバーンどもを見てな。
こうして足を向けた。今はどうなっておるか」
迫る危険を微塵も感じさせない物言いに、ギルドマスターは息を呑み、
「奴らはこちらを獲物と狙っている模様です。
各国に援軍を依頼しておりますが、
地理的にもすぐには援軍を望めない状況です」
汗を垂らしながら、ようやく答えた。
「お爺さま!すぐに我らで対処を」
ノーマンの後ろに控えていた女性が声を上げた。
ノーマンと同じ拵えの全身鎧。兜を脇に抱えたその女性は、年の頃ならまだ二十歳にも満たない娘のように見えた。輝くような金髪を後ろに束ね、涼し気な目元と、生気に満ちた肌の艶には、神々しさすら感じさせた。
「おお!もっこりナイト!」
すかさず、シドとリラに取り押さえられた寅二郎の声を無視して、
「フラン……そうだな。
ギルドマスター、構わんな?」
ノーマンの声に、ギルドマスターはぶんぶんと首を縦に振る。
「もちろん!これほど心強いことはありません。
当方としても全面的にバックアップさせていただく!」
そして、ギルドマスターは顔をギルド内へ向け、
「当ギルドから緊急クエストだ!
《ドラゴン・スレイヤー》ノーマン卿の後方支援!
皆、ワイバーンどもをこの街に入れさせるな!」
そう叫んだ。しかし、
「おいおい、あの数だぞ……」「ノーマン様がいるんだろ?」
ギルド内の冒険者たちは、ぶつぶつ言うだけで皆見るからに及び腰だった。
「ふむ、今どきの冒険者とは、この程度か」
特に気を悪くした様子もなく、ノーマンが言う。
「それでは、お爺さま、参りましょうか」
フランも、特段顔色を変えず言い切った。
ギルドマスターは苦り切った顔をしていたが、
「待て待て、ちょっと待ってくれ」
シドやリラの拘束から逃れ、寅二郎が立ち上がった。
「行く行く!俺たちも行くってば」
寅二郎がずんずん歩いていく。フランのもとへ。
「あああ……」「あの馬鹿」リラやシドは天を仰ぎ、
「フランちゃん!勝ったら褒美はもっこりで頼むぜ!」
寅二郎が、フランに笑いかけた。
そして、フランは首を傾げつつ、
「もっこり? ええご助力感謝いたします」
そう言って、頭を下げた。
「では、行こうか」
ノーマンは振り返ることも無く、ギルドを抜けた。
フランの横でルンルン、と音がしそうな歩きぶりで寅二郎が続く。
シドやリラも苦い顔のまま、歩き出す。
もはや黒雲ではない。
ワイバーンの姿が目視できるほど、それは近づいていた。




