第二話 冒険者はつらいよ②
一夜明け、寅二郎たちはリ・エスティーネ王国の検問所を徒歩で抜けた。
上手くルゼリア行の乗合馬車を見つけられなかったのだ。
「急ぐ旅でもねえし、たまには歩こうぜ」
ズタ袋を背中でプラプラ揺らし、寅二郎が歩く。
「いい天気ね」リラも上機嫌で続く。
「ああ、それにすぐ先に大きな街が見えるな」
シドも、二人に合わせてのんびり歩いていたが、
「おい!あれは何だ!」
シドの指さす先、街の向こう側に黒い雲のようなものが迫って見えた。
まだ相当遠いのか、ゆっくりと、しかし確実に街に向かっている。
「急ごう!街が心配だ」
シドが走り出し、リラや寅二郎もついて走る。
街に入り、出会った人間に場所を聞き出し、ギルドへと急行する。
ギルドに入ると、大変な騒ぎだった。
「おい!どうなってる?」シドが受付の男に詰め寄ると、
「大量の亜竜、ワイバーンの群れです!
原因はまだ不明ですが、
帝国やルゼリアの北方の山々から降りてきた模様。
帝国のベルンの壁や、世界樹の放つ強大なマナを避け、
こちらまで南下しているようで……」
――ワイバーン。翼を持つ亜竜。火を吐いたり、風魔法を使いこなしたりして、街や人を襲う。普段は北方の山々で確認される程度で、ここまで南下した例は無い。
(北方の山々で何が?……いやそれより今は!)
シドは受付に尋ねる。
「それでここまでの状況は?」
「はい、ヴァルニスはもちろん、リ・エスティーネ王国、ルゼリア、そして帝国にも救援要請は出してあります。ですが地理的にどの国でもほぼ中間地点。どこが来てくれるかは……」
ギルド内が再び騒然となり、
ギルドマスターらしき人物が走ってきて叫んだ。
「皆さん、援軍が到着するまで対応お願いします!
街に入るその前に、何とか足止めを……」
ギルドマスターの叫びにも、場のざわめきは収まらない。
「おいおい!あの数だぞ」「援軍だっていつ来てくれるか」
「到着を待っているわけにも行かないか」
シドがリラや寅二郎と頷きあっていると、ギルドの扉が開いた。
「やれやれ。今どきの冒険者は……」
取り立てて大きな声では無かった。
しかし、低く響く声。
その声を聞いたものから沈黙が伝播し、ギルド内が静まり返る。
その全身鎧の侵入者を見たギルドマスターが叫ぶ。
「あ、あなたは!」
傷だらけの全身鎧、兜を脇に抱え、背中に槍が見える。
年を重ね、かつては金色だっただろう髪も、白くなり始めている。
深く顔に刻まれた皺が、もはや老齢の域であることを物語る。
それでも立ち姿は凛として、纏う覇気は本物だった。
「“ドラゴン・スレイヤー”、ノーマン・カタストロフ卿!」
畏敬の念を込めたギルドマスターの声が、ギルド内に広がるのだった。




