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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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第二話 冒険者はつらいよ①

 寅二郎の「世界樹に礼を言いたい」という方針のもと、

 一行はのんびりと乗合馬車で旅を始めた。


 そして、ヴァルニス諸都市の辺境と接する検問所。

 リ・エスティーネとルゼリアを結ぶ最短交易路の宿場街に泊まることにした。

 両国を繋ぐ要衝ということもあり、街はそれなりの規模を誇っていた。


「せっかくだ。世界の雰囲気ってのを肌で感じてみよう」

 シドの提案で、街のギルドへと顔を出すことにした。


 寅二郎が扉を開くと、ギルドには大勢の声が聞こえる。

「おお、やってる、やってる」

 そう言って寅二郎は足を踏み入れたが、首を傾げる。


「人が多いな。昼に近いってのに、依頼はどうした?」


 確かにギルド内はたくさんの冒険者たちが座り、話し込んでいる。

 しかし、どうにも明るい雰囲気では無かった。


「あの、皆どうしたんですか?」

 リラが受付の男に話しかけた。


「あれを見て下さいよ。あの掲示板を」

 受付の男が依頼掲示板の方を指差した。


 しかし、肝心の依頼掲示板には数枚の依頼しか張り出されていない。


「“スタンビート”以降、

 ダンジョンは帝国の“ゴーレム部隊”ってのが居座っててね。

 “治安維持”の為とか何とかこっちに仕事を回さないんですよ」


 すると、掲示板に立っていた二人の男が、言い争いを始めた。

「おい!これは俺が先に見つけたんだ」

「久しぶりのダンジョン依頼、お前らには渡せん!」

 その様子に受付の男が手を広げ、天を仰ぐ。


「この有様ですよ」


 胸倉を掴みあう程、緊迫する二人の男に寅二郎が割って入った。


「まぁまぁ、待ちなよ」


「なんだ?てめぇは」二人の男の声が揃う。


「俺たちは“冒険”者だぜ?こんなちゃちな仕事で青筋立てんなよ」

 寅二郎は二人の肩を掴み、無理やり引き離すと、


「“冒険”ったら、ロマンだぜ?

 このパナデイア大陸の海の先、新大陸探して海に出る!とかよ」


 寅二郎のセリフに、二人は、というよりその場は一旦沈黙し、


「ぎゃははは!」

「何言ってんだ?」

「パナデイア大陸?何だそれ?」

 爆笑の海が広がった。


 シドやリラも困惑し、

 場が少し落ち着いたかと思いきや、


「あ!思い出した」一人の男が声を上げる。


「お前!リ・エスティーネ王国を追放された“ステータス0”勇者だろ?

 以前、王都エスティアのギルドで見たことあるぜ!」

 再び巻き起こる嘲笑の渦に、寅二郎は押し黙っていた。


「もういい、行こうトラジロウ」

「ね、そうしよ」

 シドとリラに引きずられるように、寅二郎はギルドを後にした。


 宿への道、黙ったままの寅二郎にシドが言った。

「悪いな。お前たち召喚者の知識じゃ、

 すぐに世界地図が浮かんだりするのだろうが……、

 こっちの俺たちじゃ、まだ“世界”ってのは目の前のココ、なんだ」

 前世での学生生活、当たり前の知識、当たり前の前提。

 それがここでは違っていた。


「シドが謝る事じゃねぇ。俺が悪かった。

 いつの間にか上から物を言っていたな」


 寅二郎は黙ったまま、怒っていたわけでは無かった。

 反省していたのだ。彼らの目線で考えることをしていなかった。


「それより、トラジロウ」リラが笑顔で尋ねる。


「パナデイア大陸の海の先って何?ヴァルニスで海は見たけど。

 その先って何があるの?」


「分からねえ。だから“冒険”するんだろ?

 だがな、俺たちの世界はな、球体なんだ」

「球体?」

「ああ、どっかの端から海に出るだろ?

 そしたらなんと!反対側の端につくのさ!」

「ええ!何それ」

「ここでも星が大体同じところに出るだろ?

 ってことは……」

 寅二郎とリラの“冒険”話は酒も交えてずっと続き、夜が更けていく。

 しかし、シドは寅二郎の笑顔に安心しつつも、


(“ゴーレム部隊”、“治安維持”。まだまだ一筋縄じゃ行かないのか)


シドの不安はこれから着実に形を成していくのだった。



閑話:神代アンナは思い出す


 大魔王ノクス討伐の英雄、カミシロ・アンナはリ・エスティーネ王国国王レオニス四世の執務室にいた。レオニス四世のもとで、帝王学を学び始めたのだ。


「“国や身分を越えた”、“希望の象徴”となる。そのためにはこれらは身に着けておいてもらわねばならん。この国の王になれ、と言っているわけでは無い。お主の正義を示し続けるために必要なのだ」


 アンナにも、レオニス四世の言わんとすることは分かる。


「でもまたお勉強、か……」


 勉強することが嫌なわけでは無かった。魔王ノクス討伐の時の様に、

皆で強大な敵に挑む。アンナの思い描く勇者像と何かが違う様に感じていた。


 そして、大量に積まれた書物の山に、ふと在りし日の映像が浮かぶ。




――

「キャプテン!」アンナが振り返ると、ジャージ姿の小柄な女子が立っていた。

「〇×△さん」顔も朧気、名前も思い出せなかった。しかし、

「三年の私が地区大会のレギュラーって、思い出作り、のためですか!」

 彼女は5000メートル走の選手。小柄であるため、体の接触もあり得る5000メートル走には向いているとは言えなかった。それでもアンナは微笑む。

「それも無いとは言えない。だけどそれだけじゃない」

「それって?」

「あなたは最近、頑張って調子を上げてきたじゃない!

 キャプテンである私が、いけると踏んで選ばせてもらったの」


「でも……」


 下を向く女子生徒にアンナは微笑みながら、


「思い出作りでもいいじゃない!最後まで頑張ってみようよ」


 そういって二人は走り始めた。

 地区大会までの追い込み、二人で汗を流していると、


「先輩!」「私たちも」そう言って、他の部員も付き合い始めた。

「みんな……」女子生徒は涙を流し、

「さぁ、地区大会、全部出し切ろう!」

 アンナが声を上げ、「おお!」みんなの声が一つになった。


そして、地区大会。


 彼女の結果は、2位。県大会には進めなかった。


 それでも、

「キャプテン、いえアンナ。ありがとう」

 女子生徒は泣きながら、アンナに抱き着いてきた。

 そして、アンナたちが進んだ県大会の朝、

 アンナはトラックにはねられそうな男の子を庇い、こちらへとやって来た――。




(私はまだどこか甘えているのかもしれない。でも……)


“勇者”カミシロ・アンナは自身の在り方を考え続けるのだった。

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