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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第八章 魔王無き世界編
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第一話 祝祭はつらいよ②

 ひとしきり歓声が収まった大聖堂内。

“女神の茨冠(シカン)”を被ったアンナが立ち上がると、レオニス四世が声を上げた。


「おめでとう、アンナよ。

 しかし、祝祭はまだまだ続く。

 明日は王城へと場所を移し、十字勲章の授与式を執り行う。

 各国から祝福の文も届いておる。

 皆も、宴はまだまだ終わらん。覚悟せよ!」

 最後にいたずらっ子めいた表情で言い切った、

 レオニス四世のセリフに、


「うおおおお!」再び観衆の歓声が響き渡る。


「ふふ、当分逃げられそうにないわね」

 ヤスコの軽口に、皆が立ち上がる。


 そしてアンナが振り返ると、


「じゃあな」そう言って寅二郎は先に大聖堂を出て行ってしまった。


 アンナたちも後に続き、大聖堂を後にした。


 そして、王城での十字勲章授与式。

 謁見の間には王国騎士団の面々、聖母マリアたち聖ローマン教の司祭たち、

 中央の玉座にレオニス四世が座り、アンナたち《暁の翼》の面々が跪く。


「それではこれより、

 リ・エスティーネ王国十字勲章授与式を執り行う」

 王国騎士団団長の声で式が始まる。


 しかし、その場に寅二郎の姿は無かった。


「カミシロ・アンナ、前へ」

 その声にアンナは立ち上がり、そして朝のことを思い出していた。




――「やっぱりこんなところにいた」

 朝早く、城門の下でアンナは声をかけた。

 ずた袋のようなものを肩に担ぐ寅二郎へ。


「見つかっちまったか」

 振り返った寅二郎は苦笑いを浮かべていた。


「あんたねぇ、あんたも魔王を倒した“勇者PT”の一人なんだからね」

「いやぁ、どうにも俺はああいうのが苦手でね」

「すぐ“もっこり”とか言うくせに」

「そういうのも含めて“俺”なんだよ」

「馬鹿」

「悪いな。後は任せる」


 そう言った寅二郎にアンナが何かを投げてよこした。


「これは?」


 寅二郎が受け取ると、それは腕章の様だった。

 茨の巻き付いた腕章。腕には棘が刺さらないよう丁寧な細工がしてある。


 アンナに追いついた《暁の翼》の面々も、各自それを取り出した。

「昨日もらった“女神の茨冠”。分解して腕章にしてもらった」

 アンナはそう言うと、左腕につけた。皆もそれに倣う。

 そして、皆で寅二郎に見せつけてきた。


「あんたも私たちと同じ“勇者PT”。それを忘れないで」


 寅二郎は、

 しばし腕章を見つめ、

 ようやく苦笑いを浮かべると、


「はは!覚えておくさ」


 そう言って腕章を袋にしまってしまった。


「ちょっと!なにやってんの!」


「ああ、忘れねぇよ。絶対に忘れない」

 寅二郎がまっすぐにアンナの目を見て言った。


「馬鹿。いつでも帰ってくればいいんだからね」

 アンナのセリフを背中で聞きながら、

「ああ、行ってくらぁ」

 と背中に手を振り、寅二郎は歩き出す――。




(ホントに、馬鹿なんだから)


 十字勲章を胸に皆へ振り返るアンナ。沸き起こる歓声。

 そして《暁の翼》の面々の腕にはあの腕章が巻かれていたのだった。




――その頃、城門の外では。


 城門を抜けた先にはシドやリラが立っていた。

「トラジロウ、俺たちを置いていくつもりじゃないだろうな」

「置いていくも何も」

「どこへ行くつもりなんだ」

 詰問するようなシドの圧に、たじろぎながら寅二郎が答えた。


「とりあえず世界樹に今回の礼でもしに行こうかってな」


「じゃぁ俺たちもそこへ行く。リラもそれでいいな?」

「ええ、私も平和になった世界をこの目で見ておきたいから」


 そう言う二人に寅二郎は、

「お前らも大抵物好きだよな」

 そう言って笑いながら歩き出す。


こうしてまた三人で“魔王無き世界”へと足を踏み出したのだった。



閑話:《観測者》は世界を見届ける


 上も下も分からぬ闇の中、

 かつて渦巻いていたものは、今はただ静かに漂っていた。

 闇以外に何もないそこに《観測者》エイドスは焦げた匂いを感じていた。


「これが感傷と言うものかもしれないな」


 問われたことにしか答えないはずのそれ、


 ただ見つめることに特化していたはずのそれ、


《観測者》エイドスは、大魔王ノクスの遺骸があった場所を見つめていた。


「ノクスよ、あなたのいなくなった世界、せめて私が見届けよう」


その言葉を最後に、その場所は誰にも知られずそこにあり続けるのだった――。

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