第一話 祝祭はつらいよ②
ひとしきり歓声が収まった大聖堂内。
“女神の茨冠”を被ったアンナが立ち上がると、レオニス四世が声を上げた。
「おめでとう、アンナよ。
しかし、祝祭はまだまだ続く。
明日は王城へと場所を移し、十字勲章の授与式を執り行う。
各国から祝福の文も届いておる。
皆も、宴はまだまだ終わらん。覚悟せよ!」
最後にいたずらっ子めいた表情で言い切った、
レオニス四世のセリフに、
「うおおおお!」再び観衆の歓声が響き渡る。
「ふふ、当分逃げられそうにないわね」
ヤスコの軽口に、皆が立ち上がる。
そしてアンナが振り返ると、
「じゃあな」そう言って寅二郎は先に大聖堂を出て行ってしまった。
アンナたちも後に続き、大聖堂を後にした。
そして、王城での十字勲章授与式。
謁見の間には王国騎士団の面々、聖母マリアたち聖ローマン教の司祭たち、
中央の玉座にレオニス四世が座り、アンナたち《暁の翼》の面々が跪く。
「それではこれより、
リ・エスティーネ王国十字勲章授与式を執り行う」
王国騎士団団長の声で式が始まる。
しかし、その場に寅二郎の姿は無かった。
「カミシロ・アンナ、前へ」
その声にアンナは立ち上がり、そして朝のことを思い出していた。
――「やっぱりこんなところにいた」
朝早く、城門の下でアンナは声をかけた。
ずた袋のようなものを肩に担ぐ寅二郎へ。
「見つかっちまったか」
振り返った寅二郎は苦笑いを浮かべていた。
「あんたねぇ、あんたも魔王を倒した“勇者PT”の一人なんだからね」
「いやぁ、どうにも俺はああいうのが苦手でね」
「すぐ“もっこり”とか言うくせに」
「そういうのも含めて“俺”なんだよ」
「馬鹿」
「悪いな。後は任せる」
そう言った寅二郎にアンナが何かを投げてよこした。
「これは?」
寅二郎が受け取ると、それは腕章の様だった。
茨の巻き付いた腕章。腕には棘が刺さらないよう丁寧な細工がしてある。
アンナに追いついた《暁の翼》の面々も、各自それを取り出した。
「昨日もらった“女神の茨冠”。分解して腕章にしてもらった」
アンナはそう言うと、左腕につけた。皆もそれに倣う。
そして、皆で寅二郎に見せつけてきた。
「あんたも私たちと同じ“勇者PT”。それを忘れないで」
寅二郎は、
しばし腕章を見つめ、
ようやく苦笑いを浮かべると、
「はは!覚えておくさ」
そう言って腕章を袋にしまってしまった。
「ちょっと!なにやってんの!」
「ああ、忘れねぇよ。絶対に忘れない」
寅二郎がまっすぐにアンナの目を見て言った。
「馬鹿。いつでも帰ってくればいいんだからね」
アンナのセリフを背中で聞きながら、
「ああ、行ってくらぁ」
と背中に手を振り、寅二郎は歩き出す――。
(ホントに、馬鹿なんだから)
十字勲章を胸に皆へ振り返るアンナ。沸き起こる歓声。
そして《暁の翼》の面々の腕にはあの腕章が巻かれていたのだった。
――その頃、城門の外では。
城門を抜けた先にはシドやリラが立っていた。
「トラジロウ、俺たちを置いていくつもりじゃないだろうな」
「置いていくも何も」
「どこへ行くつもりなんだ」
詰問するようなシドの圧に、たじろぎながら寅二郎が答えた。
「とりあえず世界樹に今回の礼でもしに行こうかってな」
「じゃぁ俺たちもそこへ行く。リラもそれでいいな?」
「ええ、私も平和になった世界をこの目で見ておきたいから」
そう言う二人に寅二郎は、
「お前らも大抵物好きだよな」
そう言って笑いながら歩き出す。
こうしてまた三人で“魔王無き世界”へと足を踏み出したのだった。
閑話:《観測者》は世界を見届ける
上も下も分からぬ闇の中、
かつて渦巻いていたものは、今はただ静かに漂っていた。
闇以外に何もないそこに《観測者》エイドスは焦げた匂いを感じていた。
「これが感傷と言うものかもしれないな」
問われたことにしか答えないはずのそれ、
ただ見つめることに特化していたはずのそれ、
《観測者》エイドスは、大魔王ノクスの遺骸があった場所を見つめていた。
「ノクスよ、あなたのいなくなった世界、せめて私が見届けよう」
その言葉を最後に、その場所は誰にも知られずそこにあり続けるのだった――。




