第一話 祝祭はつらいよ①
“勇者”カミシロ・アンナが大魔王ノクスを討伐!
この吉報は早馬に乗って世界各国へと駆け巡った。
砂漠王国カルナードではジャファルが、
「やってくれたな!あとは“スタンビート”を収めるだけだ」
商業都市国家群ヴァルニスでは、武聖トンペティが、
「ようやった!アンナたち、それにトラジロウ」
亜人共和国ルゼリアでも、ミレイアが、
「マナの巡りが戻ろうとしています。よくやってくれました」
そして、ガルディア帝国皇帝レギウス三世ですら、
「ようやくか。しかし褒めて遣わそう」
次々と世界のムードが、明るいものへと伝播していくのであった。
そして、ここリ・エスティーネ王国でも、
「祝祭じゃ!一週間後魔王討伐記念式典を執り行う。
確かに未だ“スタンビート”は収束しておらん。
しかし、これを契機に一気に鎮圧へと加速しよう」
レオニス四世の一声で、記念式典が動き出した。
「ちょ、ちょっと王様。早すぎませんか?」
戸惑うアンナが助けを求めるように、聖母マリアへ顔を向ける。
「よくやってくれました。
あなたたちは正に“希望の象徴”となってくれたのですよ」
聖母マリアの微笑みに送られて、
アンナたち《暁の翼》の面々が王国騎士団に引き連れられていく。
アンナが連れられながらも、顔を振り向けて言った。
「ちょっと!トラジロウ。あんたもだからね」
「へいへい」
寅二郎は、苦笑いを浮かべつつゆったりとした足取りで後を続くのだった。
衣装合わせ、会場の設営、式典のリハーサルなどなど、アンナたちは記念式典に向け忙しく日々を過ごし、あっという間に当日を迎えていた。
記念式典当日――
王都エスティアには勇者アンナの晴れ舞台を一目見ようと、各地からたくさんの人が詰めかけていた。たくさんの旗が飾られ、華やかな音楽が鳴り響く。王城の周りや聖ローマン教の大聖堂付近も解放され、人が列を成していた。
大聖堂の礼拝堂、その巨大な空間には正面に聖母マリア。その横にレオニス四世が侍る。聖母マリアの向かいにアンナが跪き、その後ろにアリア、リルル、ユキナ、ヤスコ。そして寅二郎、その後ろにシド、リラが続いた。
皆一様にこの日のための特別な衣装。白地に金糸の飾りの付いた美しく輝くような逸品に身を包んでいた。寅二郎は「首のあたり、苦しくねえ?」と呟き、シドにケツを叩かれていたが。
「おお、勇者カミシロ・アンナよ。
そなたの活躍で、大魔王ノクスの脅威は潰えた。
その功績を讃え、ここに“女神の茨冠”を授与する。カミシロ・アンナ、前へ」
レオニス四世が声を上げ、
アンナが立ち上がり、一歩前へと出てそこで跪き直した。
聖母マリアが段を降り、侍女から“女神の茨冠”を受け取った。
――女神の茨冠。初代聖女が、女神の声が聞こえなくなり迷われた際、茨の冠をかぶることで集中を取り戻し、再び声を聞くことが出来るようになったという逸話から作られた冠。聖ローマン教の象徴ともいうべきアイテム。
今は司祭級の人々の祈りをこめて作られており、様々なバフが乗るという国家級アイテム。それが今、聖母マリアの手より、アンナの頭上に戴冠された。
その瞬間、大聖堂に詰めかけた人々。そして入りきらず外に並ぶ人々へ。それから王城、街中へと歓声が波打つように広がっていく。
「うおおお!“勇者”万歳!」
「やったああ!魔王は倒れた!」
様々な人々の声が溢れ、
アンナは、床についた拳を震わせていた。
(やったんだね。なんか今実感した)
「アンナ、よくやった」アリアも誇らしげに微笑み、
「アンナさん、綺麗です」ユキナも目を潤ませる。
「ふふ、アンナ、なんか震えてない?」そう言うヤスコは目に涙が輝き、
「私たち、やったんだね」リルルも満面の笑みを浮かべた。
しかし、
(よくやったぜ、アンナ。おめでとう)
寅二郎は一人、彼女たちの後ろで、
どこか他人事のように微笑んでいたのだった。




