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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第七章 人魔決戦編
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第五話 リ・エスティーネ王国はつらいよ⑧

 黒い渦の外では、ようやくシドが立ち上がっていた。

「大丈夫?」リラが寄り添い、呟くように声をかける。


「ああ、大丈夫。悪かったな。情けないところを見せた」

 シドは涙を拭い、リラに笑顔を見せる。


「もう泣くだけ泣いた。後は信じて待つだけだ」


 シドはリラ、エルザたち王国騎士団、レオニス四世を見回す。

 そして目の合ったレオニス四世と頷きあう。


(よくやってくれた。シドよ)


 レオニス四世は、密偵であるシドに心の中で感謝した。


 そして、


「後は待つだけか。その通りじゃな」

 中の様子は分からない、それでも場の空気が柔らかくなっていた。


 そこへ、突然。


パキィーン。


 鎖がはじける音が“英雄召喚”の間に響いた。

「何だ!」「何が起きた」騎士団から声が上がる。


「心配には及びません……」


 そのか細い声に皆が一斉に顔を向けた。

 視線の先には、聖母マリアが鎖から解放され、立ち上がろうとしていた。


「マリア様!」

「聖母マリア!」


 皆が声を上げ、マリアに駆け寄る。

 エルザとリラに肩を支えられ、ようやくマリアが立ち上がる。

 レオニス四世に微笑みを向けて、マリアが言った。


「大魔王ノクスが討たれ、術が解けたようです」


 マリアの言葉に、皆の表情が明るくなる。


「そ、それは」

「それってつまり……」

「ええ、帰ってきますよ。彼らが……」


 次の瞬間、黒い渦から一つの影が飛び出してきた。


「いっちばああん!」それはリルルだった。

 満面の笑みを浮かべるリルルの後に、アンナ以下《暁の翼》の面々。


そして、


「ふわぁ、疲れたぜ」寅二郎が顔を見せ、黒い渦から現れた。

「ト、トラジロウ!」リラが叫び、寅二郎に駆け寄る。

 皆が歓声を上げアンナたちを囲み、


 シドも一歩一歩寅二郎に近づいていく。


「トラジロウ……」


 体を震わせるようにしながらも、一歩近づいていく。


「お!」


 寅二郎が声を上げた。


 シドが顔を上げる。


 が。


「マーリアちゅわ~~ん!」



──かつて“新宿のスケベ狙撃手”と呼ばれた男のようなノリで、

あるいは“世界一の三代目大泥棒”ばりの軽やかさで、

寅二郎は空中を平泳ぎしながらマリアへ飛びかかろうとした。


「!?」ぎょっとするシド。


「馬鹿!」アンナに叩き落される寅二郎。


「あ痛ぁ!」頭を抱え立ち上がった寅二郎の後ろには、シドが立っていた。


「この馬鹿!」シドが寅二郎の尻を蹴り上げた!


「あ痛ぁ!」尻を擦りながら笑う寅二郎に、


「お帰り」シドが言い、


「ただいま」寅二郎が答えた。


こうして、寅二郎たちは帰ってきたのだった。

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