第五話 リ・エスティーネ王国はつらいよ⑦
「所詮、ゴミに物を説いても無駄か」
もはや瘴気の柱と化したノクス。
その身から放たれる圧が、寅二郎たちを襲う。
「これが最後だ。アンナたち、行くぞ!」
寅二郎のセリフにアンナたちが身構える。
その身に光の膜が降り注ぐ。
ユキナの《サンクチュアリ・シールド》の光。
「ノクスの魔法は無詠唱で来るぞ!気を抜くな」
アリアが盾を構え、後ろに下がる。
「狙いを絞らせないで!場を広く使って」
ヤスコが走り、隙を伺う。
「アリア、お願い」リルルはアリアの陰で詠唱を開始。
「原初より燃え続ける炎の精霊よ、
天と地を巡り、生と滅びを分かつ赤き力よ――」
「私だって」
皆に《サンクチュアリ・シールド》を配り終えたユキナが、
次の詠唱を開始した。
「女神の御名において、清浄なる光をここに請い願う――」
「へへ、いい動きだぜ」
寅二郎は《暁の翼》の連携を見ながら、剣を振りかぶる。
「喰らいな!」光を纏った剣をノクスに振り下ろす。
「ふん」ノクスが鼻を鳴らし、寅二郎の剣を右手で受け止めた。
「今だ!」アンナは左下から右上に、ノクスの脇腹目掛け剣を振る。
「小癪な」ノクスは寅二郎の剣を握りこむと、寅二郎ごとアンナに叩きつけた。
「ぐは!」アンナを巻き込み、寅二郎が吹き飛ぶ。
そこへ手をかざすノクス。
しかし、そこへヤスコの投げた短剣が迫る。
その短剣を睨むだけで短剣が風に巻かれ、その場に落ちる。
「これでも喰らえ!《プロミネンスフレア》!」
リルルの炎属性最上位、巨大な火球がノクスに降りかかる。
「おおおおおおお!」ノクスも手から火球を放つ。
火球同士がぶつかり合い、光を放つ。
ドゴーーン!
爆風が辺りを吹き飛ばす。
「きゃああああ!」アンナたちが吹き飛ばされ、
アリアが構えた盾の中、叫ぶ。
「完全詠唱のリルルと相殺しただと!」
「くぅ」汗を垂らすリルルが歯噛みする。
爆風が静まると、ノクスの角は欠け、身に纏うローブは襤褸切れと化していた。
額から血を垂らしながら、それでもノクスは立ち上がる。
「今一歩というところでこれだ!女神め!
それほど我らが気に入らんか!」
もはやノクスの叫びは悲痛に聞こえた。だが身に纏う瘴気は健在。
「もう、これで逝って下さい!」ユキナは泣き叫ぶように魔法を放つ。
「《ホーリーライト》!」その光をノクスは動かずその身に受けた。
右肩を貫かれ、傷口から煙が立ち上る。
それでもノクスは両手を天に向ける。
「あれは!」アリアが顔を上に向け声を上げる。
ノクスの頭上に黒い太陽が膨張を始める。
「我らとて、生きていたいだけなのに……」
ノクスの呟きを聞き、ユキナの目から涙がこぼれる。
「それでもな……」寅二郎が立ち上がる。
再び剣に光を纏わせながら、時折ふらつく身体を奮い起こし、
「“俺たち”が生きていく。この世界でな」
光の柱となった剣を振り上げ、そして振り下ろす。
黒いマナの立ち込めるこの空間に、一本の線が引かれる。
その線上を走る光が、ノクスの体を二分した。
ズズズ、ズ――
ノクスの上半身がずれていく。
「悪いな、ノクス」寅二郎の口から出たのは謝罪だった。
アンナも立ち上がり、歩き出す。
寅二郎、そして《暁の翼》の面々が立った。
ノクスの遺体の前に。
「泣いてる」リルルが、ノクスの死に顔を見て呟く。
アンナたちも何も言えず立ち尽くし、ユキナはずっと泣いていた。
――こうして、“勇者PT”による“魔王討伐”は完了した。
しかし寅二郎以下、皆の心には、世界への不信という消えない傷が残った。




